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労働判例を読む#446
【国・中央労基署長(クラレ)事件】(東京地判R3.4.13労判1272.43)
この事案は、海外勤務の従業員Kが海外で自殺した事案です。労災の受給資格があるのかどうか、労災保険法3条1項の「適用事業」に該当するのかどうか、が問題となり、労基署Yは適用事業に該当せず、Xに受給資格がない、と判断しました。これを不服とするKの遺族Xが、適用を求めて訴訟を提起しましたが、裁判所もYの判断を支持しました。
1.ルール
海外勤務の労働者に労災保険が支払われるかどうか、のルールは、①出張の場合には労災保険が支払われる、②海外事業への派遣の場合には、「特別加入手続き」をした場合にのみ労災保険が支払われる、というものです。
したがって、出張か派遣か、の区別が重要な問題となります。諸事情を総合判断しますが、その中でも特に、「指揮命令」の有無が主なポイントになります。
そして、会社が特別加入手続きをしていなかったため、Kの海外勤務が「派遣」に該当すると認定されると、労災保険金が支払われないことになります。
2.事実
Xと会社は、日本の本社が指揮命令していた、として様々な事情を主張しました。しかし、裁判所は海外の事業所が指揮命令していた、と認定し、労災保険金の支払いを否定しました。
裁判所は、①まず勤務先の海外の事業が独立したものである、と認定し、②当該事業が労務管理を行っている、と認定し、③当該事業に関して指揮命令を受けている、と認定し、④日本の本社と「蜜に連絡を取り合っていた」が、これは業務の性質に基づくもので、指揮命令とは異なる、と認定しました。
特に④が注目されます。
日本の本社が、業務内容に直接関与する場面を見れば、指揮命令があるようにも見えるのですが、他方、同じ業務を行う、しかし別の事業者間の連携にすぎない、という見方もできます。結局、日本の本社の指揮命令があるのかないのか、という絶対的な評価ではなく、日本の本社による関与は、業務提携に基づくものとしての性格と、直接の指揮命令としての性格の、いずれの方が強いのか、という相対的な評価が行われている、と整理できそうです。
3.実務上のポイント
理由はあまり明らかでありませんが、この会社は、これまでは特別加入手続きをしていたのに、Kに関してはこれが不要と誤解し、手続きをしなかった、と認定されています。
社労士などに確認すべきだったでしょう。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!