労働判例を読む#318
今日の労働判例
【近畿中央ヤクルト販売事件】(大地判R2.5.28労判1244.136)
※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK
この事案は、自動販売機の補充などを業務としていた従業員Xが売上金を着服していたとして会社Yに解雇された事案です。Xは、当初着服を認めていましたが、訴訟ではこれを否定しています。
裁判所は、着服の事実を認め、YによるXの解雇を有効とし、Xに損害賠償を命じました。
なお、Xの給与に関し、裁判所は、固定残業代として残業代が支払われていた、というYの主張を否定し、Yに対して割増賃金の支払いも命じていますが、この点の検討は省略します。
1.着服の事実
この事案では、社内での調査や賞罰委員会のときと異なり、訴訟段階で前言を翻し、着服していない、動転していた、脅された、などと主張している点が特に注目されます。
けれども、自動販売機の売上データなど具体的なデータについて、本人に説明を求め、1か月以上自宅で冷静に考える機会があり、密室ではなくオープンスペースである喫茶店などで顛末書などを作成し、賞罰委員会で自分の意見を言う機会も与えられていた状況が認定されています。
このような状況が、Xの法廷での主張や証言を否定し、着服を認めた当初の発言の信用性が認められた背景と思われます。従業員の違法行為の調査の際、従業員の証言の任意性・信用性をどのように確保すべきか、参考になるポイントです。
2.実務上のポイント
この事案では、身元保証人(おそらくXの両親)に対する請求(損害賠償金額についての保証債務)も認められました。
身元保証は、これを無制限に有効としてしまうと、従業員を管理すべき会社の怠慢による損害を身元保証人に負わせてしまう結果も生じさせかねません。そこで、身元保証は5年に限って有効であるなど、その有効な範囲が制限されています。
けれども裁判所は、Xの仕事の内容が当初と変わって責任が重くなったような事情がないことや、Y退社後に再就職してXにそれなりの収入があり、連帯保証人の責任が加重でないことなどを理由に、身元保証人としての責任を認めました。
身元保証人に責任を追及する場面は限られているでしょうが、決して無制限ではないことを理解しておきましょう。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!