労働判例を読む#589
今日の労働判例
【シーエーシー事件】(東京高判R4.1.27労判1307.51)
この事案は、1か月の間を置くだけで、2度立て続けに降格・減給された従業員Xが、会社Yによるこれら処分等の合理性を争った事案です。
裁判所は、これら降格を無効としました。
1.降格の有効性
特に注目されるのは、降格の可否に関するルールです。
すなわち、降格のうちでも「職位の引き下げ」としての降格であれば、就業規則にその旨の規定がなくても降格が可能である、としつつ、本事案では、それが「人事権の濫用」に該当すれば無効であるというルールを示し、結論として、人事権の濫用にあたり、無効である、としました。
何が「職位の引き下げ」なのか、という点については、本事案の場合、Yの職務権限規程上、サービスプロデューサーやチーフプロジェクトマネージャーと、その業務内容が定められており、職位の引き下げとして就業規則の規定がなくても可能である、と判断しています。
他方、人事権の濫用かどうかについては、Xの能力不足に関する合理性が認められない(実績がよかった、等)、わずか1か月で2度目の降格をするだけの合理性を評価するには期間が短すぎる、等の理由で、濫用と評価されました。
近時、降格処分について、就業規則の規定がないなどの理由から無効とする裁判例が多く見かけられます(日本HP事件(東京地判R5.6.9労判1306.42)など)が、規定が必要でない場合もある、ということになると、「職位の引き下げ」かどうか、という観点で区別する、というルールの合理性が問題になるでしょう。今後の動向が注目されます。
2.実務上のポイント
本事案では、Xが降格を不満として退職したものの、それが降格から3年以上経過した後であったことを理由に、会社都合退職ではなく自己都合退職である、と判断しました。
失業保険の支給に関し、会社都合か自己都合かで支給開始時期が異なるため、実務上重大な問題となりますが、会社の処分に対する不満があるとしても、それだけで会社都合になるわけではない点、そのために、本事案では3年以上雇用関係が継続していた点が考慮された点、が、今後の実務上の判断で参考になります。
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