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労働判例を読む#370

今日の労働判例
【日本通運(川崎・雇止め)事件】(横浜地川崎支判R3.3.30労判1255.76)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、無期転換直前に雇止めされた有期契約者Xが、会社Yに対して、雇止めが無効であると主張した事案です。
 裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.労契法19条2号
 裁判所は、有期契約者の有する更新の期待に関し、一方で、会社が上限を一方的に宣言してもこれが否定されるわけではない、としています。
 他方で、様々な事情を総合判断して更新の期待の有無を判断する、としつつ、結果的に更新の期待を否定しています。主な理由は以下のとおりです。
・ 最初の契約から、更新上限5年と記載されてきた
・ 配属先のオイル配送センターでの業務はトラックの配車手配で、他の契約社員で代替可能だった
・ 最初の契約時、同センターは赤字だった
・ 契約上、事業所の消滅・縮小による契約終了の可能性が明記されていた
・ 5年を超えて契約更新された従業員とは、契約の内容が異なっていた
・ 5年以上働いてもらう、等の説明はなかった
 ここでは、更新が期待できないという従業員側の事情だけでなく、センターが赤字だった等の会社側の事情も考慮されていることが分かります。

2.実務上のポイント
 さらにXは、いわゆる「自由な意思」が必要であるのに、それが満たされていない、という主張もしています。
 これに対して裁判所は、最初の契約から更新上限5年とされていただけでなく、派遣契約から有期契約に切り替える際にX自身が雇用形態を比較して選択しているなど、「自由な意思」を阻害する事情がない、と判断しています。「自由な意思」が必要であるのかどうかについての明言をしていませんが、このような表現から見ると、「自由な意思」が必要かどうかについてはともかく、仮に必要であるとしてもこれが満たされている、という判断のように見受けられます。
 この「自由な意思」については、同じ日本通運を被告とする別の事件(日本通運事件、東地判R2.10.1労判1236.16)で、同様に更新拒絶の合理性が争われたところ、裁判所は、一方で「自由な意思」による更新打ち切りの合意が認められないとしつつ、他方で更新の期待が認められない、として、最終的に更新拒絶を有効としました。
 本事案では、当初から更新上限が定められていたことから、新たに更新せずに契約を打ち切ることが後から示された事案と異なるので、「自由な意思」に関する評価が異なる、とみることが可能と思われます。
 いずれにしろ、更新の期待に関する対応だけでなく、従業員の「自由な意思」への配慮も、今後は重要なポイントとなり得るところです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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