労働判例を読む#279

【東京現代事件】東地判H31.3.8(労判1237.100)
(2021.7.30初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、一方で被告会社Yに勤務しつつ、競合他社の役員をしていた従業員Xが解雇された事案で、Xが解雇の無効を主張しましたが、裁判所は解雇を有効と判断しました。

1.整理解雇
 裁判所は、Yの主張のうち整理解雇に関し、解雇無効と評価しました。
 近時、整理解雇の合理性を認めて解雇有効と評価している裁判例も見かけられます。しかし、合理性が認められるような事案では、会社が整理解雇の合理性を極めて慎重に検討し、詳細なプランやデータを提出しています。他方、本判決は、整理解雇に関して極めてシンプルで簡潔な認定しかしていません。つまり、Yは整理解雇のために十分な検討をしていなかったであろうことがうかがわれます。
 整理解雇に関し、経営的な必要性や経営判断の合理性について、裁判所も聞く耳を持っているが、そのためには会社側もしっかりと検討することが必要、と整理できるでしょう。

2.競業避止義務違反
 他方、本判決はXによる競業避止義務違反を認定し、最終的に解雇の合理性を認めています。
 具体的には、XはYの前任の代表者が設立した競合他社で役員をしていたのですが、特に注目されるのは、前任の代表者がXの兼任を知っていたからと言って、Yとしてこれを容認していたとは評価できない、としている点です。役員の利益相反であれば、株主の負託に反することが明白ですが、従業員の場合も会社と利益相反となり、会社との信頼関係を大きく損なうものです。
 しかも、繰り返し顧客情報を競合他社に提供しており、Xによる義務違反は具体的で明白です。

3.実務上のポイント
 Xによる競業避止義務違反が判明したのは、Xが解雇された後のことで、YのXに対する解雇通知も競業避止義務違反に言及していません。
 競業避止義務違反を理由とする解雇が有効であるためには、通常であれば、事前に警告し、それでも改善されず、合理的な説明がされないことを確認してから、解雇するべきでしょう。
 本事案では、このようなプロセスが省略されているにもかかわらず、解雇が有効とされました。この点は、会社に対する利益相反行為が悪質であること等が影響していると思われます。プロセスの必要性や、その在り方については、行為の悪質性などとの関連性で個別に判断されますので、この事案だけを根拠にこのようなプロセスを省略できると安易に判断しないようにしましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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