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労働判例を読む#631

今日の労働判例
【国・労働保険審査会ほか(共立サポート)事件】(大阪地判R5.4.12労判1316.46)

 この事案は、業務委託として倉庫業務等を行っていた従業員Kが、業務委託者とされるXの従業員(社会保険の関係)と認定した労働審査会などの行政機関Yらに対し、Yらによる裁決・決定の取消しを求めた事案です。
 裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.労働者性
 Kに関し、労働保険について労働者性がY1により肯定され、健康保険・厚生年金について労働者性がY2により肯定されたため、その雇用主とされたXが、Yらの判断を争ったため、当然、労働者性の有無が最初の論点となります。
 裁判所は、労働者性に関する一般的な判断枠組みを採用しました。すなわち、①労務提供の形態(指揮監督下にあるかどうか)、②報酬の労務対償性(報酬が労務への対価かどうか)、③補強要素、の3つで判断することとし、それぞれについてさらに具体的な判断枠組みを示しています。
 すなわち、①については、諾否の自由、指揮監督の有無、場所時間の拘束性、代替性、に整理して検討し、③については、事業者性(これはさらに、機械・器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の負担等)、専属性、その他(これはさらに、源泉徴収、労働保険の適用、服務規律の適用等)に整理して検討しています。
 例えば、Kが報酬に対する消費税の支払いを公正取引委員会に求めてこれが認められたことがあり、これを見れば、Kは事業者として消費税を徴収すべき立場にあった、したがってKは事業者である、と評価できる事情があります。
 けれども裁判所は、その他の労働者性を認めるべき方向での諸事情を数多く指摘し、労働者性を認めました。労働者性認定のための判断枠組みは、1つ1つが独立した要件ではなく、総合的に判断するうえで議論を整理するツールであることが確認できます。
 他の裁判例も同様に総合判断を行っており、積極的な事情と消極的な事情がある中で、どのように評価して結論付けるのか、参考になります。特に、ここで示された判断枠組みは、労働者性の検討の際に一般的によく用いられる判断枠組みであり、どのような判断枠組みが設定され、それぞれの枠組みの中でどのような事実がどのように評価されるのか、参考になります。

2.使用者性
 さらに、Xが使用者に該当するかどうかも議論されました。
 Kの労働者性が議論されれば、その相手方となるXの使用者性も当然に認められるのではないか、と思われるかもしれません。実際、労働者性が争われた訴訟で、使用者性が独立した問題として議論されない場合もあります。
 けれどもこの事案では、Kが労働者性を争ったのは、Xに対する請求だけではありませんでした。Kの前に、別の事業者について労働者性があった、と社会保険の保障を求め、否定された経緯があったのです。さらに、実際の業務に関わっていたのは、実際に報酬などを支払っていた別の事業会社がありました。つまり、潜在的に、Kの使用者となるべき事業者は、Xの他にもう二社あり、Kが労働者であると認定できても、次にXが本当に使用者なのか、という点が別に検討されるべき状況にあったのです。
 特に、報酬はXが支払っていたのではないのですが、その実態はXが金額を決定して負担していたなど、上記①~③に相当するような判断枠組みを使って、Xの使用者性を認定しました。
 二度手間のようにも見えますが、Kの側の労働者性と、Xの側の使用者性の両方を検討すべき事案もあることに気づかされた点で、参考になります。

3.実務上のポイント
 とにかく目の前の仕事をこなすための人出の確保が大事であり、今ある人材で融通を利かせながら仕事をこなすことに追われ、労務管理の体制・プロセスを整備できないまま、不満やトラブルを生み出してしまう、という案件が、ときどき裁判例として紹介されます。
 利益の増加や費用の削減に簡単にはつながらない費用・手間ですが、組織を大きくしていくために必要な基礎工事です。労務管理の体制やプロセスを、先手先手で作っていくことの重要性を確認しましょう。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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