経営組織論と『経営の技法』#338
CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ③未知への不安
大きな組織変革が難しい理由は、そもそも変わることに対する心理的な抵抗感にもかかわります。変わることへの心理的な抵抗感は、3つのことから生まれます。
1つは、未知のものへの恐れです。組織の変革は、それまでの知識を不安へと変えてしまいます。たとえば、海外などこれまでと違う土地での生活が不安を感じさせるのは、それまでの生活で培った知識が通用しないと感じられるからです。組織においても、組織変革が行われることで、今までできていたことができなくなってしまう、今までわかっていたことがわからなくなってしまうという不安が生まれます。この不安のために、人は変革に心理的な抵抗感を覚えるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』286頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
従業員が不安を感じている状況だと、組織のベクトルを変えて従業員のベクトルまで変えることは難しくなります。#335で検討した「成功体験」も違った「感情」「意識」となりますが、共に従業員の意識に関わり、会社組織の変革を妨げる点で同様です。見方によっては、成功体験があるからこそ、経験したことのないことをすることが不安に感じるという意味で、「成功体験」が変革の障害になることを別の視点から表現したということができるかもしれません。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、従業員の不安によって組織変革を停滞させないことが必要ですが、さらに言えば従業員の不安を組織変革の原動力にする場合もあるでしょう。今のままで会社は大丈夫だろうか、このままでは沈んでしまうから変えなければいけない、という動機付けです。
3.おわりに
従業員の不安のコントロールは、現実から目をそらさせることではなく、むしろ現実を直視するところから始めなければ、実際に組織変革を開始した後により大きな反動として変革自体を失敗させかねません。従業員とのコミュニケーションが基本となります。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。