労働判例を読む#250

【国・津山労基署長(住友ゴム工業)事件】大阪地裁R2.5.29判決(労判1232.17)
(2021.5.7初掲載)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、年に数回、タイヤの摩耗状況や安全性をテストするためにオートバイのテスト走行を行っていたプロドライバーXが、業務委託契約に基づくテスト走行中に事故を起こし、後遺障害を負うことになった事案です。労基署Yが、Xは労働者に該当しないとして労災不支給としたのに対し、裁判所が、Xは労働者に該当するとして労災を認めました。
 感覚的に、国際A級ライセンスも有するプロのドライバーに労働者性を認めることに違和感を覚える人も多いでしょう。私もそうでした。
 けれども、冷静に分析すると裁判所の判断の合理性も理解できます。検討しましょう。

1.判断枠組み
 裁判所は、以下のような判断枠組みで労働者性を判断しています。
① 労務提供の形態(指揮監督下にあるかどうか)
 ・ 具体的仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由
 ・ 事業遂行上の指揮監督の有無
 ・ 勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無
 ・ 労務提供の代替性の有無
② 報酬の労務対価性
③ 労働者性の判断を補強する要素
 ・ 事業者性の有無
 ・ 専属性の程度
 ・ その他の事情
 これは、労基法9条の労働者性と同一である、というのが裁判所の説明です。

2.あてはめ
 上記各判断枠組みに対し、それぞれ詳細に業務の実態を分析し、当てはめています。
 プロであり、テスト走行の注文があって初めて仕事が発生するのですから、独立性が高く、上記に照らして言えば、諾否の自由があり、任されているので指揮監督も無く、仕事のない時は自由なので拘束性も無いなど、労働者であることに疑問を感じるところです。
 けれども、バイトも労働者です。
 バイトも、バイト先やシフトを自由に選ぶなど独立性が高く、Xと状況が似ています。たしかに、コンビニやスーパーの店員のようなバイトを考えれば、Xのような専門性は無いかもしれませんが、専門的な技量を有するバイトも存在します。例えば本業は漫画家だが、まだあまり売れていないのでイラストのバイトをしているような場合、イラストのバイトの間は労働者性が認められるでしょう。
 すなわち、2つの問題が混在しているので分かりにくいのですが、「仕事」を見つけ、選ぶ段階では選択の自由があるとしても、一度「仕事」を見つけてそこで働くことが約束されたら、その仕事の種類に応じた拘束を受けることになります。後者の拘束の程度が大きければ、前者の職業選択の自由や可能性がいかに広くても労働者となるのです。
 実際、テスト走行は速度や走行方法など詳細に定められており、その条件を順守しなければなりません。たしかに、指定された条件を守るためのテクニックや、それぞれのドライバーごとの工夫もあるでしょうが、それは例えばスーパーの棚に商品を陳列する手際の良さや工夫と同様です。仕事の内容そのものについては何ら裁量が無く、それを要領よく行う点についてだけ工夫の余地があるにすぎず、その工夫の余地があっても労働者性は無くならないのです。

3.実務上のポイント
 プロだから労働者ではないというイメージは、それが当てはまらない場合のあることが明らかとなりました。
 また、この検討を通して、「指揮命令」と仕事を選ぶ自由との関係についても、両者は次元が違う問題であることが明らかとなりました。
 労務管理の負担を減らすために、労働者性が否定されるような働き方がビジネスモデルとして模索されることがありますが、その際に自分に都合の良い面ばかりつなぎ合わせるのではなく、一歩引いて、プロでも労働者かもしれない、というような視点から問題点を検証する必要があります。

※ 英語版

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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