労働判例を読む#300

【国際自動車(占有妨害禁止等仮処分)事件(2件:対資産保有会社、対会社)】(東地判R3.1.8労判1241.56, 65)
(2021.9.24初掲載)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Yらが営業所を閉鎖し、営業所の建物を壊すにあたって、同じ敷地にあった建物を使用していた労働組合Xに立退きを求めたことから、Xが、建物の使用の妨害禁止を命じる仮処分を申立てた事案です。裁判所は、Xの請求を概ね認めました。
 ここでは、いくつかある論点の中で特に、YのXに対する明渡請求権があるかどうかについて検討します。

1.判断枠組み(ルール)
 建物を利用している労働組合に対して明渡しを求める訴訟の判決は、労働判例誌でも時々見かけます。その際、結論としては明渡しを自由に認めるのではなく、一定の制限を付ける裁判例がほとんどです。
 けれども、この制限については2つの法律構成があります。1つ目は、労働組合による建物の利用は使用貸借権に基づくものであり、その解除事由である「使用目的」が消滅したかどうかによって判断する、という法律構成です。2つ目は、明渡請求権があるとしても、その行使が権利濫用などの理由で許されない、という法律構成です。
 本判決は、このうちの1つ目の法律構成を採用しました。その具体的な内容は以下のとおりです。
 ①原則ルールとして、組合事務所としての使用が継続している場合には、使用貸借契約は終了しない。②例外ルールとして、会社が適切な代替施設を提供したかどうか、組合活動を妨害するなどの意図がなかったかどうか、等も含め、会社に正当な事由がある場合には、契約は終了する。
 そのうえで、正当な事由がるかどうかについては、会社側の事情と、従業員側の事情を比較する、という非常にシンプルな判断枠組みで判断しています。

2.事実(あてはめ)
 Y側の事情として指摘されたのは、当該不動産をYら、すなわちグループ会社内で移転した(より正確には、グループ会社間での賃貸借契約を解除し、返還した)ことがYの根拠となっている点(新しい所有者とXは何の関係も無くなる、という理屈)について、組合事務所が存在することを知っていながら移転した点等を指摘しています。組合事務所の所有者でなくなったからもう貸せない、という理論で明渡請求するために外形だけ整えたことになりますので、保護する必要性が小さいことになります。
 他方、X側の事情として指摘されたのは、実際にXが事務用品を設置して組合事務所を利用していたこと、Yが提供した代替施設は非常に狭く、不十分であること等を指摘しています。現在の組合事務所を使う必要性が高く、保護する必要性が高いことになります。
 この結果裁判所は、YにはXに対する明渡請求権がない、と判断しました。XとYの利益の比較考量によって判断していることがよくわかります。

3.実務上のポイント
 上記の使用貸借権の「正当な事由」の判断は、組合事務所の元の所有者に関する理論です。
 他方、組合事務所の新しい所有者については、XとYの間の関係について特に言及していません。裁判所は、新しい所有者が明渡請求権を有しているかどうかについては言及していないのです。
 明渡請求権があるかどうか分からないのに、なぜXがその建物に居続けることができるかというと、Xが建物に居続けることができるかどうかは訴訟で決まることで、その結論が出るまで勝手に追い出されることはない、という理由です。権利者は、裁判や強制執行などの正式な手続きを使わなければ明渡しできない、自力で勝手に明渡しさせてしまうことは許されない、という「自力救済の禁止」が理由になります。
 このような理論は普段見かけないものですが、本事案は仮処分手続きであり、裁判で権利関係が確定するまでの間の暫定的な判断だからでしょう。会社としては、労働組合が不動産を不法占拠していると考える場合でも、訴訟などの正式な手続きを踏む必要があるのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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