労働判例を読む#449
【しまむらほか事件】(東京地判R3.6.30労判1272.77)
※ 司法試験考査委員(労働法)
この事案は、従業員Xに対し、会社Yの同僚らが、悪ふざけ・嫌がらせを行った事案で、Xが140万円の慰謝料などを、Yと同僚らに請求したところ、裁判所は、Yと同僚らに対して5万円の賠償などを命じた事案です。
1.嫌がらせ
同僚らの嫌がらせは、「仕事したの?」としつこく質問するとXの反応が面白い、という子供じみた理由によって、「仕事したの?」とそれぞれ質問を重ねるものでした。裁判所の判断について、こんなことでも責任を負うんだ、という感想もあれば、責任が認められて当然、むしろ安すぎる、という感想もあるでしょう。
ここで特に注目されるのは、Yの対応です。
Yは、内部通報制度を設けており、Xもこの制度によって、同僚らの嫌がらせを通報しました。これを受けたYは、実際にヒヤリングや防犯カメラの様子などを確認したうえで、Xとその夫、同僚らを一堂に集めて話し合う場を設けました。その場で、それまで嫌がらせ自体を否定していた同僚らが、それぞれの非を認めてXに対して直接謝罪し、Yに対して同様のことをしないという誓約書を提出しました。Xの夫がそれだけで納得せず、同僚らに対して、Xに対する謝罪文の提出まで要求しましたが、同僚らはこれについては拒否しました。
このように、Xの要望を全て叶えるところまでは対応できませんでした(Xに対する謝罪文)が、Xの問題提起に対して、かなり丁寧に対応していたことが分かります。このことが、賠償金額を大幅に減額させた重要な要因となっているように思われます。
2.実務上のポイント
Xは、メンタルの障害も発症しており、同僚らの嫌がらせが原因であれば、労災が認められる可能性もあります。しかし、判決を見る限り、労災申請がされた様子がありません。労災の場合には、業務上のストレスが原因かどうか、が主要論点となり、同僚らの嫌がらせはその一部要素と位置付けられることになりますが、本事案では同僚らの嫌がらせが主要な論点と位置付けられています。
Xが労災ではなく民事の損害賠償を選択したのは、Yの対応に対する不満よりも、同僚らに対する怒りの方が大きかったからでしょうか。
Yの立場から見た場合、内部通報によってXの不満に対して、相当程度の対応ができたようにも見えます(だからこそ、Xは同僚らの嫌がらせ行為を中心に据えたのかもしれません)が、労務管理の問題として見た場合には、同僚らの嫌がらせが横行していたような状況に気づかず、放置していた点に問題が無かったか、など、今後の経営のために検証すべき点は、他にもあるように思われます。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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