
労働判例を読む#607
今日の労働判例
【京都市(救済命令不実施)事件】(京都地判R 5.12.8労判1311.52)
この事案は、労働委員会に団体交渉に応じるよう命じられた京都市Yが、団体交渉に応じなかったことが違法であるとして、労働組合Xらが損害賠償を請求した事案です。裁判所は、Xの主張を一部認め、Yに損害賠償を命じました。
1.法律構成
労働委員会の命令に違反したのだから、損害賠償も当然、という簡単な法律構成ではありません。少し込み入っていますので、裁判所の理論を整理しましょう。
まず、労働委員会の命令は、団体交渉に応じるべき公法上の義務を発生させるが、私法上の義務を発生させるものではない、としました。XらがYに対して団体交渉を請求する、という私法上の権利が発生しない、という判断を示したのです。
一方で、公法上の義務はある、ということですが、その内容は明確ではありません。XとYの関係だけが問題となっているので、公法上の義務の内容までは明確に示されなかったのかもしれません。
けれども、公法上の義務とはいったいどのような義務でしょうか。Yは、労働委員会に対してだけ義務を負う、という意味でしょうか。その場合、労働委員会に対して負う義務は、いったいどのような内容なのでしょうか。例えば、Xとの団体交渉に応じたことを労働委員会に報告する、というような義務でしょうか。
過去に、公法上の義務だけ認めた最高裁判決(「(旧ネッスル日本)ネスレ日本・日高乳業(第二)事件」最一小H7.2.23労判671.14)がありますが、実際に、どのような場面でこの「公法上の義務」が問題になるのか、今後の動向が注目されます。
次に、私法上の権利として団体交渉を請求できないとしても、約30年間、「団体交渉」という呼称での協議が続いていたこと、などから、XらにはYと団体交渉する合理的な期待がある、として、この期待が侵害されたことにより、損害賠償請求できる、としました。
以上の2段階の法律構成から、団体交渉拒否によって損害賠償が認められたのは、労働委員会の命令違反と、それ以前に労使交渉が行われ続けてきたという実績の2点がポイントになった、と評価できるでしょう。
2.実務上のポイント
労働委員会の命令に従わなくてもよい、という趣旨ではありませんので、労働委員会の命令にどのように対応するのか、慎重な検討が必要です。
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