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労働判例を読む#612

今日の労働判例
【ハイデイ日高事件】(東京地判R 5.2.3労判1312.66)

 この事案は、職場でハラスメントを受けたと主張する従業員Xが、ハラスメントをしたとする同僚の従業員Y個人を相手に、損害賠償を請求した事案です。
 裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.ハラスメントの認定
 Xは、6つのエピソードをあげ、ハラスメントを受けたと主張しています。
 けれども裁判所は、そのうちの5つについては、Yのハラスメント行為が認定できない、として、Xの主張を否定しました。
 残りの1つについては、休憩室でのYの、しかもXのいない場での他の従業員への発言が問題となっており、録音がされていたことから、このような発言の存在自体は肯定しました。
 しかしこの点は、発言内容が問題とし、ハラスメントではない、と判断しました。
 すなわち、Xについて「いやだ、いやだ、あんなの。あーあ。むかつくぜ、ほんとにあいつ」、「大っ嫌いだ、大っ嫌い」、「みんなに嫌われてるのに気づかねえのかなあ。」等と否定的な発言をした点が、ハラスメントに該当しないとしたのです。これは、主観的な感情・評価を吐露するものにすぎない、具体的な事実の摘示によってXの客観的な評価を低下させていない、具体的な事実に基づく論評・評価でない、という表現内容に関する評価に加え、Yの出勤日はほぼ毎日、500件以上録音したのに、否定的な発言はこれらに限られる、一時的な会話であること、秘密録音によってXが知るに至ったにすぎないこと、をその理由とします。
 秘密録音が証拠となるかどうか、という点については、「著しく反社会的な手法で人格権を侵害して取得された」ものではない、として、証拠になり得るとしていますが、その内容・頻度・態様から、ハラスメントに該当しないとしたのです。
 否定的な発言が直ちにハラスメントになるのではないこと、ハラスメント該当性についてどのような点が考慮されるのか、という点について、参考になります。

2.実務上のポイント
 裁判所の事件管理上の事件名が「地位確認等請求」事件となっていますから、当初は、個人従業員Yだけでなく、会社も被告に加えられていたようです。会社との訴訟だけ先に解決(和解?)したのか、分離されたのか、判決からだけでは判別しませんが、Yとしては、会社と行動を共にできなかった事情があったのでしょうか。
 判決言渡し時点では、XYいずれも会社を退社していますが、ハラスメントに関する訴訟が提起された場合の、その後の展開の一つとして、従業員間のトラブルだけが解決されずに残ってしまう場合のある点など、ハラスメントへの対応について、参考になります。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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