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労働判例を読む#616

今日の労働判例
【野村證券・野村ホールディングス事件事件】(東京高判R6.2.8労判1313.38、棄却(1審維持)、上告受理申立)

 この事案は、ITコンサルティング会社A とcontractor agreementを締結して勤務していたXが、Aを業務委託先とする業務委託元野村證券等Yらで、非常時の事業継続に関する役務を提供していたところ、派遣法40条の6の1項2号に該当するとして、Yらとの間の直接雇用関係の成立を主張した事案です。
 1審2審いずれも、Xの請求を否定しました。

1.判断構造
 問題は、XがYらから直接指揮命令を受けていたかどうか、という点にあります。裁判所は、以下のような判断構造で、消極的に評価しました。
 まず第1に、Xがメンバーとして働いていたB1チームの位置付けを検討します。
 これは、BCP等のプログラムを各部門に徹底させる業務を担うチームであり、しかも、メンバーはいずれもXらの従業員ではなく、外部の専門家人材でした。
 業務の内容も、B1チームが各部門のプログラムを作成するのではなく、各部門に自主的にプログラムを作成するように指示し、その結果を取りまとめる、という業務を行っていました。そして、プログラムがそろったからでしょうか、B1チームは解散されています。
 そして裁判所は、この業務内容は専門性があり、Yらの側から具体的な業務指示がされるものではなかった、という趣旨の評価をし、Xらの指揮命令はなかった、と判断しています。
 第2に、X自身の業務を検討します。
 裁判所は、専門性が無くても外部業者への委託と評価することができるとしつつ、しかし、Xの業務も(単なる事務作業もあるが)B1チームの他のメンバーと同様であって専門性があり、Yらの指揮命令はなかった、と判断しています。
 第3に、Xが担当した個別業務ごとに検討します。
 ここでは、4つの業務が検討されていますが、4ついずれも、指揮命令を否定する理由が異なります。参考になるので、整理しましょう。
① IT関連のテキスト業務
 Yらの指揮命令が無くても遂行できる事務的な業務だった、という理由です。
② BIA業務(災害等の業務影響度分析、Business Impact Analysis)
 対象部門に業務を支持する側にいるXが、指示を受ける部門から指揮命令を受けたとは言えない、という理由です。
③ エマージェンシー・ベルト・バッグ管理業務(避難袋の配布)
 対象部門と保管場所を相談したにすぎず、指揮命令を受けたとは言えない、という理由です。
④ 非常時参照用ドキュメント(レッドブック・ブルーブック)関連業務
 原告自身が、Yらではなく、チーム内での指揮命令によることを認めている、という理由です。

2.実務上のポイント
 近時、派遣法40条の6の1項の適用が争われる事案を多く見かけます。そこでは、本事案と同様に派遣先からの指揮命令の有無が問題とされた事案もあります。
 そこでは、例えば「大陽液送事件」(大阪地堺支判R4.7.12労判1287.62、24読本351)が、派遣と請負の区分について定めた厚生労働省の告示、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働者告示第37号、「37号告示」)2条をそのまま適用し、指揮命令の有無を検討しているように、指揮命令の有無の検討の際は、諸事情を総合的に評価する方法、そのために判断枠組みを設定して議論を整理する方法、が採用される場合が多いようです。
 これに対してこの判決は、具体的なエピソードが少ないからなのでしょうか、組織構造や業務内容など、背景的な事情からの理由付けが重視され、具体的な業務遂行の状況等に関する事情は①~④に限られており、判断枠組みも設定されていません。
 指揮命令の有無の判断について、これまでの裁判例とは異なるアプローチであり、参考になります。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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