労働判例を読む#586
今日の労働判例
【F-LINE事件】(東京地判R3.2.17労判1306.87)
この事案は、特殊なトラックの運転を担当していた運転手Xが、会社Yから受けた懲戒解雇処分を違法と主張し、争った事案です。
この懲戒解雇処分は、3つの懲戒理由を根拠としますが、裁判所はそのうちの2つの懲戒理由は存在しないとして否定しつつ、3つ目の懲戒理由は合理性を認め、懲戒解雇処分自体、有効と判断しました。
1.他社の運転手へのハラスメント
裁判所が否定した2つの懲戒理由は、Xが、集配所で他社の運転手にハラスメントをしていた、という点です。具体的には、Xが、他社の運転手にハラスメントをしていて、その被害者がメンタルになってしまい、診断書も提出されただけでなく、その会社からYに対し、Xによるハラスメントをやめさせたり、担当を変えたりするように繰り返し申し入れされていた、というものです。
診断書があり、会社自身が繰り返しハラスメントに対する苦情を正式にYに申し入れており、何の裏付けもなく無責任な申し入れとは思えませんので、Xによるハラスメントがあった、と認定されるようにも見えるのですが、裁判所は、Xによるハラスメントは認定できない、と判断したのです。
その最も大きな原因は、Yが、被害者やその会社関係者の証言などが得られず、Yの他の従業員らが、被害者やその会社関係者から聞いた話、すなわち「伝聞証拠」しか証拠として提出できなかったことによります。
会社従業員が他社に迷惑をかけているときに、迷惑をかけている会社の協力(証言をしてもらうなど)が得られなければ、その従業員に処分することが難しくなってしまう、ということであり、会社の労務管理の観点から見ると、悩ましい問題です。
2.実務上のポイント
けれども、懲戒解雇が有効とされましたが、それは、Xが配置転換命令を不服として2か月、無断欠勤をしたことが主な理由です。
具体的には、配置転換が合理的であること(特に、ハラスメント自体は認定できなくても、他社との関係を円滑にすべき必要性はあるし、Xを退職させようとするような配置転換でもない、など)を認定したうえで、無断欠勤の悪質性(Yからの連絡に全く応答しない、など)も考慮し、懲戒解雇を有効、と評価しました。
配置転換命令に従わなかったり、無断欠勤を重ねたりする問題社員への対応について、参考になる事案でしょう。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!