労働判例を読む#478
※ 司法試験考査委員(労働法)
今日の労働判例
【グッドパートナーズ事件】(東京地判R4.6.22労判1279.63)
この事案は、派遣の介護士Xが、就職1年目で会社Yに更新拒絶され、この更新拒絶が無効であると争った事案です。更新拒絶が明示されたのは1回だけですが、1回目の更新拒絶が無効となれば、再度、2ヶ月の契約が成立しますので、その満了時に2回目の更新拒絶があったかどうかが問題となりました。
裁判所は、Xの請求のうち、2回目の更新拒絶までの間の賃金請求などを認めました。
1.更新の期待
本事案で特に注目されるのは、更新の期待について、裁判所が、1回目の更新に対する期待は認めたものの、2回目の更新(実際には改まって更新拒絶が明言されたわけではなく、1回目の更新の期待が2ヶ月とされたために、観念的に2回目の更新が問題になってきました)に対する期待は否定した点です。
このうち1回目の更新に対する期待は、更新が確定した旨のメールを送信していることなどから、(Yは、そんなつもりじゃなかったという趣旨の言い訳をしていますが)更新の期待が認められて当然の状況でした。
けれども2回目の更新に対する期待は否定されました。1回目の更新の期待を認めているのに、2回目の更新の期待を否定するのですから、それなりに強い理由が必要なようにも思えますが、ポイントとして、①雇用期間が、当初、2ヶ月と明確に限定されていたこと、②1回目の更新の段階で更新しない旨が明確に示されていること、③最初の契約でも、更新する旨の記載がないこと、が指摘されるだけで、むしろ非常にシンプルな理由付けしかされていません。
②③は、会社が更新拒絶する場合には一般的に主張されるポイントですから、特に重要なのは①です。更新の期待の判断で、契約期間の長さが重要な要素となることが、この事案でも示された、と評価できるでしょう。
そして、1回目に更新されるべきときから、2回目の更新が否定されるまでの期間について、未払賃金の支払が命じられました。
2.実務上のポイント
更新の期待が認められた場合、更新拒絶することの合理性が次の問題となります(労契法19条柱書)。本事案では、2回目の更新拒絶については、そもそも更新の期待がないと評価されたので、更新拒絶の合理性は問題になりません。1回目の更新拒絶の合理性だけが問題にされました。
ここでYは、Xが同僚の業務を妨害し、悪影響を与えている、という趣旨の主張をしています。
けれども裁判所は、Yの主張を認めませんでした。ポイントは、Y側の主張や証拠が薄い点にあると評価できます。実際、Xの言動によって他の同僚が多大な時間を取られた、とするYの主張については、「どのような業務」が影響を受けたか不明であり、「裏付ける具体的な事情」「証拠上(の)具体的な記載」がない、と指摘されています。
本事案では更新拒絶ですが、会社側の判断の合理性や権利濫用が問題になる事案では、抽象的な評価はいくらあっても意味がなく、裁判所が指摘するように具体的なエピソードに基づいてリアルに、問題を浮き彫りにする必要があります。特に、契約書の表現などよりも、労務管理の現場での実態が重視される労働紛争の分野では、このようなリアルな記録や管理が重要であり、このことを改めて気づかされる裁判例です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!