私が東京高裁に提出した陳述書(2)ー苦しむ女性たち
私がAV事業者から訴えられた名誉棄損訴訟(控訴審)で、東京高等裁判所に私が提出した陳述書を順次公開してまいります。
陳述書(1)はこちらで、こちらはその続きです。
3 Bさんの件に取り組んでいた2014年8月、私は 自分がオーサーを勤めている、 Yahoo!ニュース個人というサイトでAVの出演を強要される女子学生が相次いでいることに警鐘を鳴らす記事を投稿しました(乙10-4)。
今ではよく使われている「AV強要」という用語は、この記事で初めて社会的に認識されることになりました。記事は非常に多く拡散され、社会に衝撃を与えました。
この記事がきっかけとなり、 相談支援機関に対する相談件数が飛躍的に増加しました。
このため私も、PAPS及び、PAPSと一緒にAV出演強要問題の相談支援事業を展開していたNPO法人人身取引被害者サポートセンターライトハウス(以下、ライトハウス, 乙10-5) の紹介で、AVの出演強要被害の相談を多数受けるようになりました。
相談を通じて、嫌がる女性にAV出演を強要して屈辱的な暴力的性行為の限りを尽くす許しがたい行為が想像を超えるほど広がっており、若い女性たちを食い物にしている実情がわかり、被害者の負った心の傷や終わらない苦しみに本当に心が痛みました。
思い出したくない性的被害が作品としてインターネットを通じて無限に拡散し、娯楽としておびただしい数の人々に見られ続けていることの苦しみも非常に大きいものでした。
彼女たちは意に反して撮影された自分のAV作品の販売・配信の停止を強く望んでいましたが、多くの事案で、 AV メーカーは強要を示す証拠はないなどとして、販売・配信を続け、女性たちを絶望の淵に突き落としていました。
自分の AV が販売され続けていることを苦にして自殺した女性もいます。
私は、これは個別ケースで戦うだけでは限界がある、
何よりあまりにも深刻な女性に対する人権侵害であるから、 社会問題として、人権問題として調査を行い、 被害防止のための政策提言をすべきだ
と考え、ヒューマンライツ・ナウの女性の権利に関するプロジェクトで、この問題について調査報告書を作成することを提案しました。
同プロジェクトでは、私以外にもAVの出演強要被害の事件に取り組んでいる弁護士が数名おり、こうしたメンバーを中心に被害事例を検討し、調査報告書を作成することになりました。
調査の結果、改めて、AV強要は集団強姦よりもリベンジポルノよりもさらに深刻な人権侵害だと痛感しました。
若い女性の無知や困窮に乗じて、衆人環視のもとでの意に反する性行為を強要し、その一部始終が半永久的に公にさらされる被害。
それは著しい人権侵害であり、違約金の脅しによりこうした奴隷的な立場に置かれる「債務奴隷」ともいえ、女性に対する深刻な暴力だ
と私たちは結論付け、政府などに緊急の対応を求めました。
それが2016年3月3日に公表した調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」(乙1号証)です。
公表時に 記者会見を行った結果、 NHK をはじめとするテレビ、新聞各紙に私たちの調査報告書が大きく取り上げられました。
4 ところがまもなく、AV業界や現役の女優、引退した女優の方などから「強制されている人などいない」等とする調査報告書批判や、私たちに対する激しいバッシングが巻き起こりました。
しかし、 こうした苛烈なバッシングに対し、 立ち上がったのは これまでずっと声を上げることもできずに苦しみ続けてきた被害者の女性たちでした。
せっかく調査報告書によって、 AVの出演強要という許しがたいひどい暴力が世の中に問われたというのに、大勢の声によってかき消されてしまう、 無かったことのようにされてしまうのは耐えられない、そうした思いから被害女性たちが声をあげてくれたのです。
匿名でメディアの取材に応じてくださる女性たちもいましたし、 週刊文春や朝日新聞の取材に応じて、顔を出して自分が受けた被害について語り、声を上げてくださる被害者の方も現れました。
(声を上げたユーチューバーのくるみんアロマさん)
メディアは衝撃的な被害体験を大きく取り上げ、 AV出演強要被害は2016年の夏頃には社会問題として大きく取り上げられるようになってきました。
2016年6月、内閣府はこの問題について調査を開始することを閣議決定し、内閣府の調査にあたってはヒューマンライツ・ナウも支援団体とともにヒアリングに呼ばれました。
内閣府は調査を進め、2017年3月、調査報告書「若年層を対象とした性的な暴力の現状と課題~いわゆる「JKビジネス」及びアダルトビデオ出演強要の問題について~」を発表しました(乙15)。
この調査の結果、モデル、アイドルに勧誘されて契約を締結した若年女性のうち、同意していない性的な行為等の撮影に被害を受けた割合が約27%にも及び、被害が深刻でかつ広がっていることが明らかになりました(乙16)。
(報道 TBS)
この結果を受けて政府は2017年3月、AV出演強要被害根絶に向けた関係府省対策会議決定を発足し(乙17)、緊急対策に乗り出し(乙18) 、同年5月には今後の対策を策定、警察は取り締まりの強化を宣言しました(乙19)。
5 しかし、その後もAV出演強要問題が解決したわけではありません。
特に深刻なのが、過去に出演強要された映像が未だに拡散し続ける、「デジタル性暴力」というべき被害です。
半永久的にインターネットを通じて自分の過去の性行為が拡散されて誰に見られるかわからない恐怖と絶望感は女性たちの未来を奪い、精神や生きる力を蝕んでいました。
いつ誰に見つかるかわからない恐怖で、家から一歩も出られない、恋愛も結婚もできないし就職もできないという絶望です。
2016年6月には、(中略)出演強要していたプロダクションの関係者が労働者派遣法違反で逮捕され、罰金刑を受けました。
(以下、被害者の方について記述しています。プライバシーを考慮し、省略します)。
(続く)
(写真は裁判所提出の陳述書には添付していません」。
🍄 裁判の経緯についてはこちらをご覧ください。
裁判費用がかさんでいます。もし、noteを通じてサポートをいただけましたらとてもうれしいです。