私たちは、Human Augmentationでフラットな世界を創る
こんにちは、15th Rockの豊田です。先日、当ファンドのLP投資家であるMistletoe創業者の孫泰蔵さんと15th Rockのメンバーで、当社の投資テーマであるHuman Augmentationについて深くディスカッションをさせていただきました。(泰蔵さん、貴重なお時間を本当にありがとうございました!)
本記事は、その大変学びの多かったディスカッションをベースに執筆させて頂いております。※一部わたしの個人的な想いも入ってしまっている箇所もあります、どうかご容赦ください。
実力主義が染みついた私たち
実力主義って、公平でしょうか?
前近代までの社会的地位は、身分や生まれによって定められていましたが、近代化以降には、どんな生まれの人に対しても平等に成功するチャンスが与えられる社会になりました。この近代化以降の考えを「メリトクラシー」といいます。
しかし、メリトクラシーは本当にフェアなのでしょうか?
まずは以下の絵について、ぜひ皆さんも考えてみてください。
「フェアな選考を行うために、みんなに同じ試験を受けてもらいます。木に登ってください。」
この絵の世界は公正でしょうか?いえ、さすがに、魚やあざらしがいる中で木登りだけで評価されるなんてちょっと無理がありますよね。これは、OSが異なる生物が存在する中で、そのOSの違いを無視し、同質化されたゴールが当たり前に設定されている点がおかしい、ということになります。
しかし、この絵でおかしいと感じた点は、今もなお現実世界で起きていることではないでしょうか。
「女性も、男性のように社会進出をすべきだ。」
「障がい者にも、健常者のように働ける場所を与えるべきだ。」
こんなふうに、男性や女性、健常者や障がい者など…様々なヒトが存在する中で、生まれた瞬間から誰もが社会的成功を潜在的に求められていることって、おかしいのでは?―これが冒頭で挙げた「メリトクラシー」に対して懐疑的である理由です。
色々なヒトに対して、たった1つのものさしだけで評価し、同調圧力を虐げていることは、公正ではない。むしろ、ディストピアと言えるのではないでしょうか。
実力主義から脱却するためには
ではこの絵において「フラット」を実現するためには、何が必要でしょうか?
木の高さを1mに設定する。
もしくは、それぞれ木の高さを、海の生物は1mに、犬は2mに、猿は5mに設定する。…etc
人間世界でいうと、こういうことです。
左側は、すべての人に同じサポートが与えられており「平等」です。右側は、すべての人が観戦できるように、個人差を考慮されたサポートが与えられており「公平」です。
左には「機会の平等」、右には「結果の平等」という言い方も当てはまるかもしれません。これも、まさにフラットに近づける思想だと思います。
色々な意見が出るところですが、私の意見は、そもそも単一の評価軸となる試験自体をなくすという考えです。試験という評価制度は、実力主義のもとで生まれたルールであり、それはフィクションにすぎないのではないでしょうか。
そしてその試験をなくすためには、テクノロジーの力に頼ることで「全個体が一瞬で鳥のように飛べることで、そもそも評価する必要性をなくす」こと、「それぞれが持つ個性に実利価値を付けて、木登りだけを良しとする単一の評価軸を取っ払う」ことが必要だと考えています。
つまり現実世界でいうと、物理的にヒトの個体差をなくす、多様性を形づくる個の能力を実体的に膨らますことで、もっと中立的でリスペクトフルな世界を創れるのではと思っています。
Human Augmentationでフラットな世界を創る
Human Augmentationとは、人間が持つ認識および肉体能力を強化することであり、イメージしやすい例を挙げると、攻殻機動隊やサイコパス、レディプレイヤーワンのような世界観です。
このHuman Augmentationの実装が進むことで、上記で述べたヒトの個体差 や単一の価値観が消滅し、もっと中立的な世界を実現できないか?とちょっと妄想してみました。
だれでも使える空飛ぶスーツ
すでに空中を移動できるスーツを開発しているスタートアップはありますが、そのテクノロジーがより発展し、例えば、運動能力を必要とせずに、頭で考えるだけで空中を移動できるスーツがあったら、どんな社会になるでしょうか?
おそらく年齢も障がいも全く関係なくなるでしょう。100歳のおばあちゃんだって、骨折をしている人だって、足がない人だって、このスーツを着用することで自由に移動できる機会を得られるのです。
そうなると、健常者とそれ以外なんて分類もなくなり、ヒトの個体差が物理的になくなる世界がやってくると思います。
15th Rockの投資先でもあるWHILLの開発する電動車椅子は、今空港に常設されていますが、子どもや若者が楽しんで乗っている光景をよく見ます。WHILLのミッション「すべての人の移動を楽しくスマートにする」の通り、もはや私たちが普段使う言葉としての「車椅子」の概念は消えていくのかもしれません。
ヒトの足よりも何倍も速く走れる義足
マルクス・レーム選手は、2014年7月ドイツで開催された国内最高峰のドイツ陸上選手権に出場し、オリンピアンの記録を抜きました。
近い将来、義足を着けることで、馬並みの俊足が手に入る時代がくるかもしれません。(マルクス・レーム選手の場合は、テクノロジーの力でなく、彼の努力が大いに関係するところですが)
倫理的観点で五体満足を自ら放棄するなんてありえないという意見もあるかと思います。しかし、現状速く走ることは、スポーツの世界以外では強要されておらず、あくまで自分の「意思」による選択であることから、完全にNGでもないと思います。
わたし個人の意見としては、むしろ義足=可哀想と思われるよりも、速く走れて羨ましがられる世界もいいなと思います。
そうなると、身体の特徴としての個性がより輝きだし、健常者だけが良いという単一のものさし(価値観)から脱却できる日がやってくるのではないでしょうか。
先日、日本科学未来館の特別展「ロボットとくらし」に行ったところ、こんなテクノロジーに出会いました。
楽器の機能をもつ義手や、1本腕を失うどころか腕を増やす技術は、そもそも欠損という概念自体を消し去るイノベーションだと思っています。
テクノロジーだけでなく、あの憧れていたスーパーヒーローのような腕を装着することができたら、腕があってもなくても、この義手を着けたくなるでしょう。
しかし、私たちは「テクノロジーが進むごとに、どんどん人間も拡張していきましょう」とは言いません。以下の例を見てみましょう。
人間の脳細胞を組み入れたコンピュータチップ
チップは通常無機物で構成されるものですが、低価格・高性能であればあるほどよいです。これは、メリトクラシーの極地ともいえます。
ではもし、このチップに個々人の脳細胞を移植することで、自分の脳が自律的に外部機器を操作するコンピュータが誕生したら、どうなるでしょうか?
色々と便利になる場面は出てくるかと思いますが、結局は、「コンピュータ的に優秀な」脳細胞が入ったチップほど需要が出てくるはずです。
そうなると、優秀な脳細胞を持つ人が社会的に求められるようになりますが、これはもはや実力至上主義ではなく、遺伝子至上主義になってしまうと思います。
メリトクラシー化がもっと進み、だれも幸せになれない社会は、絶対に避けなければなりません。
以上見てきた通り、Human Augmentationは、私たちのライフスタイルを大きく変え、社会的価値観にもイノベーションを起こすテクノロジーです。インパクトが大きいからこそ、3つ目に挙げた例のように、社会が思わぬ方向に進んでしまう可能性もあるので、Human Augmentationはそのテクノロジーの使い道や使い方を倫理的観点で十分に見極める必要があります。
しかしそれ以上に、Human Augmentationは、これまでマイナスと捉えられていたものを、プラスにまで引き上げるチカラを秘めており、そのチカラでフラットな世界を実現できるのではないでしょうか。
Human Augmentationとは、個の拡張
ベンチャーキャピタルとはスタートアップへの投資を行う組織ですが、それはつまり産業を創り、ひとの生活に変革を起こす仕事です。一方で、私たちが投資判断を一歩間違えれば、社会の価値観や生態系を壊してしまう可能性もあります。なので、私たちは投資リターンのみならず、倫理的責任も含め総合的に投資を検討しなければなりません。
こういった背景のもと、15th Rockは、Human Augmentationに対する私たちの考えを改めて捉えなおし、この度ロゴ・ビジョンのリニューアルへ至りました。私たちはHuman Augmentationへの投資を通じて、固定概念や障壁、年齢を取っ払って、新しいライフスタイル、新しい価値観を創っていきたいと考えています。
その新しいライフスタイル・価値観とは、能力の高低や才能の有無などで人間を判断せず、それらの特徴を個の延長としてフラットに見つめられる世界のことです。
つまり、私たちの考えるHuman Augmentationとは「個の能力を拡張」するテクノロジー、そして「Diversityの拡張」とも言えるのです。
「時系列や状態を気にしないぐらい、スーパーヒーローになれるもの」
「他人と比較することなく、個性を自信に変えるようなもの」
現状マイナスと捉えられているものでも、プラスの状態までぶっ飛ばしてしまうようなHuman Augmentationに投資していきたい、と私たちは考えています。
ただし、なによりも大切なのは、常にあるべきHuman Augmentationの姿を模索し、今後も自問自答し続けることだと考えています。
編集後記
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
15th Rockは皆さまのおかげで創業3年めを迎え、コンセプト・キービジュアルの刷新と社名・ロゴ変更等を行うリブランディングを行いました。
Human Augmentationの領域は、寿命の長命化やテクノロジーの発展、新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化等により、さらなる拡大が見込めると予想しております。
今後も15th RockはHuman Augmentationへの投資活動に邁進、エコシステムの活性化に貢献することで、人々が固定観念や年齢、障壁から解放され、より自分らしく生き生きと暮らせる社会の実現を目指してまいります。