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「遠くへ行きたい」って行かなくてもいいでしょうに。マエさんの続き。

〜一五一会10年記〜

「だからって黙って遠くへ逝かなくていいっちゅーに。水臭いんだから」と"じむぶちょー"。(彼女は先々でまた出ます)
「言ってくれればいいのに。隠してるから、遠くに行くことになるんや。」ときょん姉さん。
「セカンドオピニオンとか紹介もできたのにね」と"ウッキ嬢"。(彼女も後ほど出ます)
前回の「田園」にも出てきた、私の歌を立て直す役でもある、きょん姉さんが言う。
「そう思うでしょ?ユビコよ?」その時は私も素直にそうだよねー、オープンにすればアドバイス出来るのにー、と返した記憶がある。私が辞める直前の数年、4人残ったメンバーの当時の会話。
そう。マエさんはもうこの世にはいない。彼は70代前半だった。
聞けば、肺の病気だったそうだ。
歌になくてはならない身体の器官、肺。作詞作曲ならつんく♂さんのように出来ても、歌うのはあくまで自分。歌が好きでことさら歌を唄うことが好きな人間にとって、肺や喉より上の身体の部分を壊すと、まず精神をやられる。
つんく♂さんがいかに鋼メンタル(良い意味で)か驚くのはこんな時だ。
マエさんの死後から数年、昨年の秋の終わりに咽頭失声症で自分の表現が出来なくなった経験をした私には、今ならマエさんの気持ちが分かる気がする。  
たぶん、マエさんも私も豆腐メンタルのくせに、変にプライドが高いんだ。
だからこそ歌いたい、でも歌えない、もう歌えないかもしれない。だけどそんな未来は見たくない。弱った自分を人に見られたくない、だから状況報告しないで秘密にして、治ったら、何もなかったかのように皆の前に現れて、いつものように歌うつもりでいたのに、とマエさんが思っていたのかどうかは今となっては謎だけど、多分それが叶わないと解った瞬間、人は呆気なく虹の橋を渡り、遠くへ行ってしまうのかも知れない。
私はそんな訳にはいかない、とは思っているけど。
ともあれ、もう一度マエさんの太く暖かい低音で歌う、
ダ・カーポ「遠くへ行きたい」が聴きたかったなぁ。
あれはマエさんの声の為にあったような曲。ご本人サマより更に朴訥として、思わず「遠くへ行きたいですね」なんてテキトーな誰かの隣で今にも言ってしまいそうな気がするのだ。
人に思わずそう言わせてしまう歌なんてそうそう歌えるものじゃない。
それがプロでもアマチュアでもだ。マエさんはアマチュアだけどそれをやってしまう。今となっては羨ましい限りだ。

ただ、今は同じタイトルの番組で数年前、軽やかに歌っていたCHAGEさんの声で聴きたい気分だけれど。
私はまだ重い最期に向かう年齢ではない、と思っていたいから。

そして、一五一会で弾くアルペジオに苦しみ始めた頃の自分も思い出して切なくなるけれど、この曲こそ、また新しいきっかけになるはじめの一歩だったから。
あぁ、気がつけばもう冬。次の発表会の曲を決めなくては。

…そこで私の我儘が炸裂する。
そして少し長く、時空を行き来しながら着地する曲。
一五一会の日々の中でも少し不思議な運命を辿るこの曲は最初にこの曲を作ったこの人本人の苦悩の始まりとも言われる曲でもあり、長い彼の音楽生活の中でも稀に見る運命を辿ります。
次回、いよいよ私のいろいろな意味で運命を変える曲が登場します。

大澤誉志幸
「そして僕は途方に暮れる」
人生最初の推しにして、私の運命を変えたアーティスト。それまで文章を書くことを空気のように感じていた私が「私、文章書けるので」と自覚した瞬間や、この曲をカラオケで歌いたいがために山奥に行ったり、一五一会を始めて数年、初めてのソロ楽譜になったり、枚挙にいとまがない程です。
お楽しみに!それではまた。

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一本柚美子
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