ベタ

指先に触れて 温めるもの
撫でた手のひらの形に沿って 膨らんでいくもの
肌には空気の層だけが触れていて
ゆっくりと肺を満たしていく
部屋の中に流れていくもの
爪先を離れていく 慣れ親しんだもの

膝をついて 水を汲んだ桶の中で回転する
闘魚の鮮やかな薄い鰭が
ゆらゆら動くのを眺めていた

夏の風は遠くで
朧な記憶の中で微かに鳴っていた
あてのない感情のまま記憶だけが
揺蕩うように 揺れていた