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てんとう虫


 娘が小学1年生の春。

 学校から帰ってきたばかり娘が筆箱を開けながら、
「この子たち、飼ってもいいでしょ。かわいいから、つれてきたよ。」

 箱型の筆箱の中で、黒地にだいだいの斑点があるとげとげのイモムシが2匹、もそもそと動いている。

 筆箱にイモムシが……。

 よく生きていらっしゃった!

「初めてみたよ。なんの虫のあかちゃんなの?」

 娘は得意げに、
「てんとう虫。」



 学校の校庭の草むらで見つけたらしい。

 まずは、これからは筆箱に虫さんを入れないように、と教える。息が出来なかったら、死んでしまうよ、と。



 てんとう虫の幼虫はアブラムシを食べるらしいと知り、飼育ケースに畑のカラスノエンドウを入れた。カラスノエンドウにはおそろしいほど、びっしりとアブラムシがついている。カラスノエンドウは毎日取り替えることにした。



 幼虫たちは、なんの不自由もなく暮らしているようにみえる。天敵はいないし、食事もできる。湿り気にも気をつけているし。


 しばらくすると、幼虫たちがかわいらしくみえはじめた。娘はもちろん、幼稚園児の息子も興味深々だ。



 しばらくして、幼虫たちはまったく動かなくなった。調子が悪いのかと心配したが、気づいたら丸い形のさなぎになっていた。

 そうそう、この子たちは変げするんだっけ。こんなに形が変わるなんで、大変なことだろうな。無事に成虫になれますように。

 毎日、さなぎの様子をみる。


 ある日。
 知らぬ間に羽化していた。
 2匹とも。同時だ。

 丸い赤地に黒い点々。
 これぞ、てんとう虫。
 立派になってと、わたしはうるっとする。

 あわてて、子どもたちを呼んで、一緒に見守る。

 てんとう虫たちは、じっとしている。
 まだ、慣れない体。とまどうよね。


 そのうち、羽の色がはっきりしてきた。
 羽が乾いたのかな。

 飼育ケースから出してやると、高い場所を目指して登っていく2匹。てっぺんまできたら……



 飛んだ!



 育てさせてくれてありがとう。
 たいしたことはしていないけれど、見守っていて、楽しかったよ。



 どうか、楽しい虫生を!



「バイバーイ!」
 と手をふる子どもたち。
 育てるって、いいなと思った。



 あれから10年ほどが経ったこの春。
 娘は大学進学のため、我が家を巣立つ。




写真はuranusさん🌸にお借りいたしました。ありがとうございました♪

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