海のきゅうり
その日、わたしは生後6ヶ月の娘を連れて、児童館へ遊びに行っていた。
娘はおとなしくお座りをして、積み木に夢中だ。まわりをみると、娘より少し年上の赤ちゃんが多いようだ。先輩ママの話が聞けるかなとちょっと期待する。
なんとなく挨拶をしつつ、まるく集まって、ママさんたちの話が始まった。わたしも端っこで、話を聞く。ちょっと、聞こえづらそう。集中しないと。わたしは耳が遠い。
「○○○アレルギー、大変よね。」
「そうよねぇ。」
私の耳、肝心なことが聞こえない。
集中、集中。
「ナマコアレルギーの子、周りにたくさんいるのよ。除去が大変みたい。今はなんでも入ってるからねぇ。」
聞こえた!ナマコだ!
口の動きも読めたし。間違いない。
ナマコ。 ナマコ。 ナマコ。
わたしの頭の中に、新婚旅行先のグアムで踏んづけたナマコたちの姿が蘇る。茶色でぷにぷに、どちらが頭でお尻なのかが、わかりにくい姿。グアムには、踏んづけるほどいたナマコたち。
食べられちゃうのかぁ。そう思うと気の毒だなぁ。あんなにたくさんいたからなぁ。わたしでも、簡単に捕獲できるし。
いや、ナマコといえば、中国でしょ。干しナマコは高級食材というし。栄養もたっぷりありそう。いや、値が張るから、やっぱりグアム産かしらん。
あー、日本にもあるよ。赤ナマコ。お正月に食べるあれ。お義母さん、必ず出してくれる赤ナマコ。あれが入っているのかしらん。
とりあえず、乾燥してから粉末にしてるはず。
ナマコパウダーって名前かな。いや、ナマコは英語表示かも。ナマコって英語でなんていうんだっけ?
わたしの想像は果てしなく続く……。
「知らなかったなぁ。なんでも入っているなんて。」
思わず、つぶやいたわたしの言葉に、そこにいたママさん5人が、一斉にこちらに視線を向けた。
沈黙が流れる。
なんだか、もうこれ以上話さない方がよさそうな雰囲気。それからのわたしは貝になった。
また、想像が……
さっきの沈黙、神様が通ったって、子どものころにいってたヤツよね。神様っていったら……
その日の午後。
すぐ下の妹が遊びに来てくれた。
わたしは、午前中に仕入れたナマコアレルギーの話を妹に鼻高々と披露した。
妹は全てを聞いてから、深々とため息をついて、
「お姉ちゃん、それナマコじゃない。タマゴだよ。タ・マ・ゴ!」
ポカンとしたわたし。
脳内のたくさんのナマコたちは、一瞬でタマゴに置き換わった。びっくりしすぎて、半分ヒヨコになっている。
ピヨピヨピヨ。
ヒヨコが鳴いている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?