オーパーツ
灰色の砂の海を背に、僕は巨大な岩の塊にハンマーを打ち立てる。
音叉のような音が、こだまする。
岩に刻まれた、地獄まで延びる譜面のような模様は、その地層が新生代完新世に堆積したものであることを示す。
音叉のような音が、こだまする。
6,500万年前、彼女は歌を聴かせてくれた。その歌は、聴く者を死ねない身体にする歌だった。
音叉のような音が、こだまする。
周りの大人たちは彼女を悪魔と罵ったけど、その歌声は、確かに僕を救ってくれた。果てなく落ち続ける砂時計のなかに、生きる意味を見つけることができた。
音叉のような音が、こだまする。
あの時代に存在するはずのなかった「彼女」の化石を発掘し、しかるべき学名をつけるために、僕は巨大な岩の塊にハンマーを打ち立てる。
音叉のような音が、こだました。
▼短編小説集「iridium」
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