共用部のマントラ
自分の住むマンションの玄関からエレベーターまでの間に3部屋分の玄関がある。
その前に伸びる共用の通路があるのだが、そこに大きめの落とし物があった。
見ると手帳サイズほどの白い紙にペンで何か書いてあるようだ。
その時は急いでいたので、ちらと見ただけでエレベーターへと乗り込んだ。
用事を済ませマンションへと戻り、エレベーターから通路へ出ると、
やはり紙は落ちたままである。
顔を近づけてみる。
そこには、「黄色い龍」「禊」「40回水を浴びる」「間違えたら最初から
やり直し」「マントラを唱える」などと日常ではあまり目にしないメモの羅列。
マンションの通路側には各部屋の風呂場がある。
このいずれかの風呂で、間違えないように気を付けながら禊を行なっている方が
いるのか?
などと考えていると、どこかのドアから音がしたような気がしたので
紙はそのままにそそくさと自室へと入る。
かなりプライベートな内容であるようだし、ライトな内容だとは言えないメモなので、早く持ち主さんが気付いて収まるべきところに収まればいいなと思った。
自分は信心深い方だとは言えないし、スピリチュアルなものに対しては冷静な目を持つ方だ。そういったことを決して否定はしていない。
しかしなんとなくモヤモヤするような心地。
一枚の紙切れが放つオーラ。それは持ち主の悩みや不安に比例するのか?
明くる日、出かけようと通路へ身を出すと、紙は落ちたままなのである。
どうしたことか。持ち主はしばらく部屋から出てきていないのだろうか。
ゴミとして勝手に捨てるわけにもいかないし、落とし物として
掲示板に貼るのも忍びない。
紙の前で立ち止まり、手に取りもう一度よく読んでみた。
「龍神」「2、3周まわる」など。やはり何かの儀式なのか。
この儀式を行うよう指示を受けたのだろうか。占い師的な人から。
とそこで、自分の頭の中でパンッ!!と思い当たった。
2日ほど前に友人と会食し、その後我が家で茶を飲んだのだが
友人は占いに行ったと言っていたことを思い出した。
思い出した私はサッと紙を拾い上げ、ポケットにしまいこんだ。
なんと友人が落としたであろうその紙は2日間もの間、マンションの共用部に晒されていたのだ。友よ申し訳ない。
名前などの個人情報はなかったので許してほしい。
次に会うときに返そう。
禊、間違わずにうまくいくといいね。