ウクライナ危機 : 流出したヌーランドとパイアット通話の記録 (BBC 2014年2月7日)とオリガルヒに支配されるウクライナ
https://www.bbc.com/news/world-europe-26079957
頁上写真:ビクトリア・ヌーランドとジェフリー・パイアット
12月にキエフの野党キャンプを一緒に見学
-訳者より
米国国務長官補ヌーランドが、特務機関「米国国際開発庁」を使い、バチキフシナ党のアルセニー・ヤツェニュク、ウダル党のヴィタリ・クリチコ、スヴォボダ党のオレフ・チャニボクら、ウクライナの野党勢力の政治家をクーデター政権で閣僚にしようと画策。計画は実行され、野党勢力はそのままファシストクーデター政権の閣僚となった。後半に『オリガルヒに支配されるウクライナ』(2015年12月5日, ジェローム・デュバル)を併訳、新たに外国人の閣僚3名を迎えた政権がどのようなものかを伝える。
2014年当時のバラク・オバマ大統領は米政府がウクライナの野党を操っていることを否定した。このエピソードは恥ずべき米国の嘘を私達に突きつけている。
本文
ビクトリア・ヌーランドと駐ウクライナ米国大使ジェフリー・パイアットとの間の会話が木曜日にYouTubeに登場した。疑惑の会話がいつ行われたかは明らかではない。(訳者注:YouTube公開は2014年2月4日火曜日の日付となっている)
※ 以下は、BBC の外交特派員ジョナサン・マーカスによる注釈を伴う書き起こしです。
※ 警告: このトランスクリプトには罵倒が含まれています。
ヌーランドのものと思われる声 : どう思います?
パイアットのものと思われる声 : 我々の出番だと思います。クリチコ[ヴィタリー・クリチコ、野党3党の主要リーダーの1人]の部分がはっきり言って複雑です。特に、副首相就任の発表、それに今、結婚生活で困っていると私のメモでいくつか見ているでしょうが、彼がこの件でどうなっているのか、早いところ掴もうとしています。あなたは彼に意見してください、次の電話の段取りになると思いますが、あなたがヤッツ[アルセニー・ヤツェニュク、同じく野党指導者]にしたことと全く同じです。あなたがこのシナリオに適合する場所に彼を置いてくれて、嬉しいですよ。それに彼の返事もとても良かった。
ヌーランド: ええ。クリチコは政府に入るべきではないと思うんです。必要ないと思いますし、良いアイデアとも思えないの。
パイアット: そうですね、 彼が政府に入らないという点では、彼は外して、政治的な宿題などをさせてておくといいでしょう。進行中のプロセスでは、まあ、穏健派の民主党議員をまとめたいと考えているんです。問題はチャニボク[オレフ・チャニボク、もう一人の野党指導者]とその仲間たちになりますね、ヤヌコビッチがこの件に関して計算していることのひとつが……
ヌーランド:(畳みかけて)ヤッツは経済も統治も実績のある男ですよね。彼にはクリチコとチャニボクという選手が必要でしょう。週に4度は彼らと話す必要があるの。クリチコは入ってくると思うけど.…..ヤツェニュクのために働くようなレベルでは、うまくいかない。
パイアット: ええ、いや、その通りだと思いますよ。いいでしょう、次のステップとして、我々があなたに、彼との通話を設定しますか?
ヌーランド: あの電話、あなたに聞いたんですけど、私の理解は大物3人が自分たちで会議をやって、ヤッツがそこに入れてくれようとしていると。3プラス1の会話か、あなたを交えて3プラス2の会話。そういうことじゃないの? あなたはどう思ったんです?
パイアット: いや、そうじゃないです。私はクリチコがトップの犬だった場所の力関係がわかっているんで、あれはクリチコが提案したことです。彼は、どんな会議にもしばらく姿を見せないでしょう。この時点で彼は部下と話をつけていますから、あなたが直接彼に接触することで、3人のパーソナリティー・マネージメントに役立つと思いますし、3人より私たちを後押しする機会も彼が与えてくれると思います。全員が着席してから、彼がそれが気に入らない理由を説明します。
ヌーランド: OK、いい感じね。彼に連絡を取って、前か後に話したいかどうか聞いてみたらどうでしょう?
パイアット: OK、そうしよう。ありがとう。
ヌーランド: ジェフ、もう1つ重要なことが。[クリック音が聞こえる] これを私があなたに言ったか、それともワシントンにだけ言ったのか思い出せせないけど。今朝ジェフ・フェルトマン [国連政治問題担当事務次長] と話したとき、彼は国連のロバート・セリーっていう新しい名前を出しました。 今朝、私はあなたに書いたかしら?
パイアット: ええ、見ました。
ヌーランド: 彼は、セリーと[国連事務総長の]潘基文の両方に、セリーが月曜か火曜に来ることに同意してもらいました。これは、このことをくっつけるのに役に立つわね。国連がこれを、クソEU(F**k the EU)とくっつけるのにね。
パイアット: まさに。我々はそれがくっつくようにするために何かしなければなりません。これが軌道に乗り始めたら、ロシアは舞台裏で魚雷を撃ってきますよ。そこなんです。なんでヤヌコビッチがああなのか、私はまだ頭の中で考えています。こうしてる間にも地域の党派閥会議が進行中です。この時点で、グループ内で活発な議論が行われていると思います。とにかく、速く動けば、ゼリー面を上にして着陸できます。クリチコについては私に任せて、あなたには引き続き……我々は国際的に顔の効く誰かをここに呼んで、この件の仲介役を務めてもらいたいです。もう1つはヤヌコビッチへのアウトリーチですが......これについては明日、状況を見ながら再編成でしょう。
ヌーランド: ジェフ、その部分について、私がノートを書いたとき、サリバン[米国副大統領の国家安全保障担当補佐官]が戻ってきて、VFRがバイデンが必要だと言ってるって、それで私は、アタボーイ[※よくやってる子やペットを褒めるスラング] と詳細を固めるのはおそらく明日になると言ったんです。だからバイデンは喜んでいるの。
パイアット: 素晴らしい。ありがとう。
オリガルヒに支配されるウクライナ
2015年 12 月 5 日 ジェローム・デュバル
https://www.cadtm.org/Ukraine-in-the-Oligarchs-Grip
オバマ政権下で欧州・ユーラシア担当国務次官を務めたヴィクトリア・ヌーランドと、駐ウクライナ米国大使ジェフリー・パイアットとの間の有名な盗聴された電話 [2]に続き、ウクライナの新しい大統領ペトロ・ポロシェンコはジョージ・ソロスと緊密に協力しつつ [3]、米国およびビジネス界との和解を追求している。容赦ない緊縮政策の下、犠牲になっているのは貧困に陥っているウクライナの人々である。
億万長者のポロシェンコが政権を握る
2014年5月25日、40%を超える棄権率が目立つ大統領選挙がようやく実施され、億万長者の実業家ペトロ・ポロシェンコが政権を獲得した。彼は「オレンジ革命」の主要なスポンサーであり、主催者の一人であり、ユーロマイダン運動にも資金援助を行ったとみなされている[4]。1996年から1998年にかけて民営化の波に乗り、いくつかの製菓会社を買収し、それらを自分の苗字にちなんでロシェングループにまとめあげた(このことが「チョコレート王」というあだ名の由来になっている)。ロシェングループが、旧カール・マルクス工場でヘーゼルナッツを使った「キエフ・ケーキ」を製造しているのも歴史の皮肉である。
元ウクライナ中央銀行理事(2007年 - 2012年)、アザロフ政権下の2012年には経済大臣を務めたペトロ・ポロシェンコは超新自由主義政治を実践している。すなわち、キエフとEUとの自由貿易協定が2016年1月に発効し、カナダとも締結が迫っている[5]。2014年、『フォーブス』誌によると、彼の財産は16億ドル(約15億ユーロ)と推定され、この国で最も裕福な人間の一人である。ポロシェンコは、レニンスカ・クズニャ造船所、タクシー車両、自動車工場と、テレビのチャンネル5(5Kanal)を含むメディア[6]などの帝国を率いている。彼の選挙公約の一つは、全ウクライナ人の平均賃金を彼の従業員のそれと同じ約7,000フリヴナにすることだった。「45,000人の従業員にできるなら、4500万人のウクライナ人にもできる」というのが彼のお気に入りの宣言である[7]。それなのに、ウクライナの最低賃金はヨーロッパで最も低く、月額約1,300フリヴナ、2015年11月の為替レートで50ユーロにも満たず[8]、ガーナの最低賃金よりも低い。
冷戦のエコー
ポロシェンコ新政権は、オタワ、ワシントン、その他の西側諸国に、同国の工業地帯である東部の親ロシア派分離主義者との闘いに使用する高性能兵器を懇願した。18ヶ月で8000人の死者を出した兵器である。これまでのところ、ホワイトハウスは全地形型軍用車と非武装型無人機の送付に同意している[9]。さらに、在欧米軍司令官ドナルド・レンの発表に基づき、ペンタゴンは2015年11月23日からウクライナの航空宇宙部隊の大隊を訓練する予定である[10]。
オリガルヒと金融業者の新政府
ポロシェンコ政権のもとで、新たに「情報政策省」が発足した。それが承認された2014年12月2日、約40人のジャーナリストが「ハロー、ビッグブラザー」-----ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の「真実省」にちなんだプラカードを持って国会前でデモを行った。このプロパガンダ省は、皮肉なことに、ウクライナ政府のお気に入りの批判対象である旧共産党政権の特定の側面を思い起こさせるが、ポロシェンコ大統領が所有するチャンネル5のプロデューサー、ユーリイ・ステッツが指揮を執っている。ファシストのような民族主義民兵と、ロシアに支援された分離主義グループのあいだの東ウクライナでの戦争犯罪の可能性を指摘するレポートを、ウクライナのジャーナリストや人権擁護団体が発表した直後に、この省が設立された[11]。
ポロシェンコ大統領は、政令により、直ちに閣僚に任命された3人の外国人に、ウクライナ国籍を付与した[12]:
2002年にエストニアのHansabankとスウェーデンの投資ファンドEast Capitalに勤務し、OAO Federal Hydrogeneration Companyの取締役を務めた後、アイバラス・アブロマビシウスはウクライナの経済・貿易大臣になるためにリトアニアの国籍を捨てなければならなかった。ロシア語、リトアニア語、エストニア語、英語を流暢に話す一方で、国会でウクライナ語で話されることの85%しか理解していないことを認めている[13]。
政治的な地位を得るためにウクライナ国籍を取得したのは、アイバラス・アブロマビシウスだけではない。ワシントンの米国務省でキャリアを積み、1992年から1995年まで在ウクライナ米国大使館に勤務したナタリー・ヤレスコは、投資会社Horizon Capitalを立ち上げ、現在はウクライナの財務大臣である。アメリカ国籍を維持しながら、彼女は就任当日の2014年12月2日にウクライナの国籍を取得した。2015年9月16日、彼女は5億ドル近い融資の契約を世界銀行と締結した[14]。
アレクサンダー・クビタシビリは、2008年から2010年までの2年間、母国グルジアの保健大臣に就任していた[15]。
しかし、それだけではない。現在、特に職権乱用と公金横領(予算から500万ドル近くを着服した容疑[17])といういくつかの刑事責任を問われている前グルジア大統領のミヘイル・サーカシビリ[16]は、ジョージ・W・ブッシュの友人であり、当時のアメリカ大統領がグルジアを訪問した後、2005年に首都トビリシの空港からの道路は「ジョージ・ブッシュ通り」と改名されたのだが、ユーロマイダン運動の支持者でもある。副首相のポストを拒否した後、2015年5月にオデッサ州知事になった。サーカシビリは、当時、自国での犯罪捜査に起因する法的手続きの手が届かないニューヨークで暮らしており、2014年夏、ポロシェンコからの呼びかけに応じ、彼のチームに参加することになった。この仕事を受けるために、彼はグルジア国籍を捨ててウクライナ国籍を取得する必要があった[18]。これは、元大統領が自国を離れて海外で政治的ポストに就くという、初めてのケースである。サーカシビリは、自分がウクライナにいるのはプーチンとの戦いのためだと宣言している。「私はウラジミール・プーチンが嫌いだ。私がウクライナにいるのは、これが私の戦争であり、私の人生の運命がここで決められているからだ。」[19]
エネルギー省の大臣には、ヴォロディミール・デムチシンが就任した。大臣就任前は、投資ファンドのインベストメント・キャピタル・ウクライナのエグゼクティブ・ディレクターを務めた。ウクライナING銀行の副社長、Ernst & Young in Kievのチーフエコノミスト(2003〜2006年)も務めた。エネルギー部門の料金引き上げと民営化政策を行うには最適の人物である。
アルセン・アヴァコフは、自身が知事を務めていたハリコフ州ピソチン近郊の土地55ヘクタールを違法に譲渡した罪で、2012年にインターポールのリストに掲載されたが(2005年から2010年の間)、内相に留任している。
右派セクター(プラヴィ・セクター)のナチス指導者ドミトリー・ヤロシュは、4月に国防省の顧問に任命され、右派セクターの義勇軍の軍への統合を促進する任務に就いた。
極右勢力やNATOと密接な関係を持つオリガルヒ・ポロシェンコの新政権は、この地域が平和の道を歩むことを望んでいないように見える。このような人事を見ると、政治・経済の意思決定に対するビジネス界の干渉は避けられないようであり、金融界と権力の要衝の間の回転ドア現象は目に見えている。
脚注
[1] 2014 年の大統領選挙でのウクライナ インターネット党 (UIP) のダース ベイダーに扮した男性の立候補は、同国の中央選挙管理委員会によって拒否された。レーニン像の多くはすでにウクライナで取り壊されており、住民の一部から憤慨した反応を引き起こしている。
http://www.lepoint.fr/insolite/une-statue-de-lenine-en-ukraine-transformee-en-dark-vador-23-10-2015-1976330_48.php
[2] その議論の中で、ヴィクトリア・ヌーランド は、米国はウクライナの民主主義を促進するために 50 億ドルを費やしたと述べた。参照: http://www.les-crises.fr/ukraine-oaodvd-4/
[3] たとえば、ポロシェンコへのソロスの手紙を参照: http://cyber-berkut.org/docs/Poroshenko,_Petro_and_Yatsenyuk,_Arseniy_23DEC14.pdf
[4] Tadeusz A. Olszański、Agata Wierzbowska-Miazga、《ポロシェンコ、ウクライナ大統領》、2014 年 5 月 28 日。http://www.osw.waw.pl/en/publikacje/analyses/2014-05-28/poroshenko-president-ukraine
[5] カナダ政府関係者によると、カナダとウクライナ間の貿易額は 2011 年から 2013 年の間に平均 3 億 4,700 万ドルに達しましたが、2014 年には 2 億 4,400 万ドルに減速した。
/2015/07/14/003-ukraine-canada-libre-echange-harper-iatseniouk.shtml
[6] ウクライナでは、主要なテレビ チャンネルの大多数が寡頭政治家によって所有されている。たとえば、Rinat Akhmetov は Ukrayina TV の所有者である。
[7] http://www.robert-schuman.eu/en/doc/oee/oee-1517-en.pdfを参照
[8] 2015 年 11 月 6 日の為替レート: 26 グリブナ = 1 ユーロ。
[10] http://fr.sputniknews.com/defense/20151102/1019257279/usa-entrainement-bataillons-ukraine.htmlを参照米軍、NATO 加盟国、および「平和のためのパートナーシップ」プログラムに参加している他の国 (武器と軍事装備を備えた最大 2,500 人の軍隊) は、ウクライナ内で最大 61 日間、多国籍軍事行動に参加することができる。 2015 年 11 月~12 月。
[11] Charles Recknagel、2014 年 12 月 3 日、「『No Big Brother!』ウクライナのジャーナリストは、キエフの新しい情報省に反対している。」http://www.rferl.org/content/ukraine-ministry-information-journalists-protest/26723352.html
[12] 経済、財務、および保健の大臣として。「Un gouvernement ukrainien ouvert aux étrangers」、Stéphane Siohan、Le Figaro.fr、04/12/2014 (フランス語) http://www.lefigaro.fr/international/2014/12/04/01003-20141204ARTFIG00390-un- gouvernement-ukrainien-ouvert-aux-etrangers.php
[13] Leonid Bershidsky、Bloomberg、2015 年 1 月 6 日。「この男はウクライナの経済を救えるか?」http://www.bloombergview.com/articles/2015-01-06/can-this-man-save-ukraines-economy
[14] 「ウクライナの明るい地平線 : ナタリー A. ヤレスコへのインタビュー、ホライズン キャピタル、キエフのマネージング パートナー」; リーダー オンライン http://www.leadersmag.com/issues/2007.3_jul/jaresko.html
[15] 参照: 「『外国人』がウクライナの最高大臣のポストに着く」、フィナンシャル タイムズ、2014 年 12 月 2 日。
[16] ミヘイル・サーカシビリ は、2004 年から 2007 年まで、および 2008 年から 2013 年までグルジアの大統領であった。彼は、現在の大統領 ギオルギ・マルグヴェラシヴィリ が 2013 年 11 月に就任した後、国を去った。
[18] グルジアの法律は、二重国籍を保持することを禁止している。常時国外に住んでいる場合、その者はグルジア市民権を失う。
[19] 参照: http://www.theguardian.com/world/2015/oct/27/mikheil-saakashvili-putins-nemesis-ukraine
著者について
ジェローム・デュバル
CADTM ネットワークのメンバーであり、スペインの市民債務監査プラットフォーム (PACD) のメンバー ( http://auditoriaciudadana.net/ )。
Fátima Martín と共著『Construcción europea al servicio de los mercados financieros』(Icaria 社説、バルセロナ 2016 年)、同じく共著『 La Dette ou la Vie』(Aden-CADTM、2011 年) で 2011 年にリエージュ (ベルギー) で最高の政治本賞を受賞。