見出し画像

ヘビはどこにいる?

 勤務先である大学のキャンパスは、豊かな自然に恵まれている。普段、私が利用している2階建ての教職大学院棟も、周囲を樹木や花壇に囲まれた中にある。

 その教職大学院棟の1階トイレで、ヘビが目撃されたそうだ。院生たちの間では、LINEで注意を喚起する情報が回っているらしい。

 また、ヘビが大の苦手であるY先生は、自分の研究室が1階にあるのにもかかわらず、トイレを利用する際には毎回わざわざ2階まで行っているそうだ。

 私も「ヘビが得意」というわけではないので、その気持ちはわからなくもない。

 ヘビが捕獲されるか、その死骸が発見されるまで、Y先生は1日に何回か1階と2階の往復をすることになるのだろう。


 ・・・しかし、考えてみると、
「ヘビが1階にいるのを見た」
 ということが、必ずしも、
「今もヘビが1階にいる」
 ということを意味するわけではないのだと思う。

 私を含めた多くの人たちには、
「足を持たないヘビは、
 地面を這って移動する」
 というイメージがある。

 だが、ヘビたちの身体能力は高い。大きなヘビが高い木に登り、鳥の巣にある卵を丸呑みするという光景は、テレビの動物番組などでときどき目にするものだ。

 今回、1階のトイレで目撃されたヘビが、階段を上って2階のどこかに潜んでいるという可能性は否定できない。

 私たちは知らず知らずのうちに、
「ヘビは平面上を移動する」
 というバイアスにとらわれていたのではないだろうか。


 ・・・問題は、この「2階のトイレだって必ずしも安全ではない」という可能性について、ヘビ嫌いのY先生にどう伝えるかである。

 今のところ、
「ヘビは、2階に行ったのと同じくらいの確率で、外に出て行ったということも考えられますよ」
 ということぐらいしか思い浮かばない。

 ・・・間違っても、
「教職大学院棟にかぎらず、どこのトイレだってヘビがいる可能性はゼロじゃありませんよ」
 というのは何の慰めにもならず、むしろ恐怖心を煽るだけだから言わないほうがいいだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?