45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(31)
世界海事大学
日本財団は、国内だけではなく海外にある団体や事業に対しても助成を行っている。その対象の一つが世界海事大学(World Maritime University)だ。
ここは、1983年に国連の国際海事機関(IMO)によって設立された大学院を主体とした大学で、本部はスウェーデン第3の都市であるマルメにある。
この世界海事大学では、アジア・太平洋、アフリカ、中南米を中心とする国々の海事行政担当者を対象に、海事法規・政策、海上安全・環境管理、海事教育・訓練などの専門知識を有する人材の育成と、各国の海事関係者の人的交流および国際協力の推進をすることが目的だ。
日本財団は1987年以来、この大学の学生を対象に奨学金支給などの人材育成プログラムを実施している。2021年までの四半世紀の間に、のべ81か国・730名の奨学生を輩出しているのだ。
新型コロナウイルスが世界的に流行する前には、5月の休講期間を利用して、日本への1週間の研修旅行を実施していた。たとえば、コロナ禍前の2019年には、奨学生30名と引率者2名が来日している。
滞在中の訪問先は、日本財団と国土交通省のほか、港湾施設、造船・舶用機器工場、海事教育機関などの中から、過去の訪問先と行先がかぶらないように選ばれるという。また、海事分野以外にも、自動車工場などで日本のものづくりや産業の一端に触れてもらうこともあるそうだ。
・・・私が日本財団で研修をしていた際、この世界海事大学への助成について、担当している職員の方がこんな話を聞かせてくれた。
「奨学金たちのほとんどは、卒業後にそれぞれの国の政府や教育機関などで要職に就くことになります。世界の海洋をめぐっては、海難救助、密航や密輸の取り締まりなど、国境や領海を超えて複数の国が連携をして解決しなければならない問題がたくさんありますが、それはデリケートでとても難しいことです。でも、そんなときに世界海事大学で培った人脈が役に立つんですよ」
・・・おそらく「同じ釜の飯を食う」という感覚は、世界共通のものなのだろう。過剰な同窓意識は、ときに閉鎖性や癒着などを生む場合もある。だが、こういう「友情」ならば悪くない。
とかく短期的な成果や数値目標ばかりが求められる昨今だが、世の中にはこんな息の長い取組みもあるのだ。