「教師の自腹」を生むメカニズム(上)
『教師の自腹』(福嶋尚子・栁澤靖明・古殿真大著、東洋館出版社)という本が話題になっている。
この本では、本来ならば公費で賄われるべき費用を教職員が自己負担している例の一部として、「採点用の文房具、授業のための教材、部活動の審判資格取得費用、大会への交通費、家庭訪問時のガソリン代、各家庭の徴収金未納の立て替え、物品破損の弁償」などが紹介されている。
何年か学校に勤めている教職員であれば、誰しも似たような経験をもっていることだろう。私自身もその一人だ。著者たちは、全国の公立小・中学校に勤める1,034人の教職員に対する調査をもとに、「積極的」「消極的」「強迫的」という三つの枠組みで整理をしながら、「自腹」のメカニズムを分析している。
著者の一人である福嶋尚子氏は、公教育に対して保護者が支出する入学準備費、副教材の購入費、給食費、部活動や修学旅行にかかる費用、卒業記念品代などに代表される「隠れ教育費」に焦点を当て、問題提起をしてきた方である。
しかし、この本では「保護者に負担をさせる側」の学校にも、教職員の「自腹」という「隠れ教育費」が存在していることを明らかにしている。本来ならば公費によって賄われるはずの費用を負担しているという点で、保護者による支出も教師の「自腹」も同じ「隠れ教育費」だと見ることができるのだ。
私自身の肌感覚でいうと、教師が「自腹」を切ってしまう理由には、主に次の3つがあると思う。
①に関していうと、各学校に配当される年間の予算には、学校種や規模などに応じて上限が決められている。私が勤務していた自治体では、教職員の交通費にも学校単位で年間配当予算の上限が定められていた。そのため、その予算を年度途中で使い切ってしまうと、それ以降の公務出張や行事の引率等にかかる費用は「自腹」になるのが当たり前だった(近年は実費が支給されるように改善が図られている)。
授業や部活動などに使う備品や消耗品についても、年間予算の枠がある。基本的には年度当初に各教科や分掌ごとに希望物品を募り、会議を経て承認されたものが公費で賄われることになる。しかし、優先順位が低いと判断されたものは「却下」「来年度以降に」となってしまうのだ。結果として、
「タブレット端末用のタッチペンを、『自腹』でクラスの人数分買った」
「バスケットボール部で使う作戦盤が古くなっていたが、年度当初に購入希望の申請を忘れたので『自腹』で新品のものにした」
というようなケースが生じてしまうのだ。ちなみに、どちらも最近聞いた実話である。
(つづく)
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