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「越境学習」の活かし方

 先週、横浜市内の小学校で主幹教諭を務めているAさんとお話をする機会があった。

 ただし、Aさんの現在の勤め先は学校ではない。昨年の4月から、東京都内にある大手の生命保険会社で研修中という身分なのである。

 横浜市には、毎年、副校長昇任試験の合格者の中から数名を選んで、企業などに1年間派遣をするという研修制度があり、Aさんもその一人なのだ。

 4月になると、Aさんは横浜市内の学校で新任の副校長になるか、もしくは教育委員会の指導主事を務めることになるだろう。

 1年間の研修が終わりに近づくにつれて、4月からの新しい環境のことや、そこでこの1年間の経験をどのように活かすのかということについて、Aさんは不安を感じているようだった。


 私も小学校の教員として20数年間勤めた後、Aさんと同じ研修制度によって、東京・虎ノ門にある日本財団で1年間の勤務を経験した。

 日本財団はボートレースの売り上げ金の一部を資金源として、海洋・国際協力・教育・文化・福祉・環境などの事業に助成をする公益法人である。

 1年間の研修期間中、私は様々な助成事業の進行管理、視察、実地体験などをさせてもらうとともに、年度末には次年度の助成申請に関する審査の一部を担当させてもらった。

 こうした経験の中でも、福岡県柳川市にあるボートレーサー養成学校に体験入学をさせてもらったことや、カンボジアの山岳地帯にある学校の視察に同行させてもらったことは特に印象深い。


 ・・・「越境学習」と呼ばれるものがある。これは、その人にとっての「ホーム」と「アウェイ」を往還する(行き来する)ことによる学びのことだ。

「越境」とは、個人にとっての「ホーム」と「アウェイ」の間にある境界線を越えることを意味する。

「ホーム」は、その人にとって居心地のよい慣れた場所で、そこには気心の知れた仲間たちもいる。しかし、そこは変化が少なく、刺激に乏しい場所でもある。

 一方の「アウェイ」は、慣れない場所、居心地の悪い空間である。そこには見知らぬ人たちがおり、それまでの言葉やルールが通じなかったりもする。けれども、そこは多くの刺激に満ちた場所でもある。

 私が日本財団で過ごした1年間は、まさに「越境学習」だったといえるだろう。学校という「ホーム」では絶対にできなかったことを数多く経験させてもらった。

 この「越境学習」によって自分が得たものや変化したことをいくつか挙げるとすれば、次のようになるだろう。

・経験を通した視野の広がり
・学校教育のことを見直す視点
・様々な人々との人脈
・新たな環境や事象に対応していく力

 ・・・研修によって、Aさんにも多くの学びや変化があったに違いない。この「越境学習」を活かして、4月から活躍されることを祈りたい。

【参考】石山恒貴・伊達洋駆著『越境学習入門』(日本能率協会マネジメントセンター)

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