奈良教育大学附属小学校で何が起きていたのか?【中】
前回の記事で、1月17日付で奈良教育大学のWebページに掲載された「お詫び」の文章と報告書のことを紹介した。
冒頭の学長による「お詫び」の言葉は、次のように始まっている。
※ちなみに奈良国立大学機構は、奈良教育大学と奈良女子大学を運営する国立大学法人として2022年(令和4年)4月に設置された。同法人のトップは理事長が務め、両大学の学長は大学総括理事として理事会に名を連ねている。
私が違和感を覚えたのは、この文のなかの
「教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある旨、奈良県教育委員会から連絡があり」
という部分である。
都道府県の教育委員会が所管するのは、その域内にある公立学校だ。当然、国立大学の附属校は管轄外である。
なぜ、附属校の問題が大学関係者以外のルートから学長の耳に届き、そして大学が動いたのか?
一方、報告書の19ページには次のような記載がある。
これによれば、
「学長就任以前から、当校の教育課程の運用や学校経営等に課題があることを認識し」、
「その都度、当時の学長や校長にその旨を述べており、これを受けて当時から改善指導や制度改革が進められていた。」が、
「現学長が学長に就任した令和4年4月以降も、引き続き課題解決に向けて、附属学校部運営委員会における上記課題の確認、当校への授業視察等を行ったが、本事案に係る不適切事項の発見には至らなかった。」
ということだ。
「課題があることを認識し」ていたが、「不適切事項の発見には至らなかった」というグレーな状態が続いていたらしい。
それなのに、なぜ今回は奈良県教育委員会からの連絡があったとたん、「不適切事項の発見」を含む一連の流れになったのだろうか?
・・・都道府県教育委員会と地元の国立教員養成系大学・学部とが、教育実習、教員研修、人事交流などを通じて協力関係にあることは間違いない。それでも前述をしたように、あくまでも大学にとっては外部の組織である。
考えられるのは、次のような可能性だろう。
続いて、同校の現在の校長に目を向けてみたい。校長の「お詫び」の言葉は次のように始まっている。
現校長は奈良県内にある公立学校の教員経験者であることがわかる。また、附属小の教員OBであればこういう書き方はしないだろうから、いわゆる「生え抜き」ではないことも推測できる。
ところで、先ほど引用した報告書の「学長のガバナンス」には、
「当校の運営体制について、令和3年度の校長専任化を機に、校長を中心とする体制への見直しを行うべきであったが、それがなされていなかった。」
という記述がある。
国立大学附属校の校長は、母体である大学の教授が兼職をすることが一般的である。当然、大学の授業や研究活動等の合間を縫っての業務になるため、附属校に常駐することは難しい。事実上の学校運営は、副校長を中心に行われることが多いのだ。
しかし、同校では令和3年度に校長の専任化を図っている。これは現学長が学長就任以前から認識していた、
「当校の教育課程の運用や学校経営等に課題があること」
と無縁ではないだろう。
現校長は、令和3・4年度の「専任校長」の後を継ぎ、昨年4月に校長として着任したということになる。
附属校の「生え抜き」ではなく、公立校出身の人物を校長として着任させるに当たっては、大学側と奈良県教育委員会との間に何らかの合議があり、現校長に学校改革の「ミッション」が託されたと考えるのが自然だろう。
気になるのは、校長による「お詫び」のなかにある以下の記述だ。
「奈良教育大学附属小学校において、教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある旨、奈良県教育委員会から連絡が」あったのは5月のことだ。現校長が着任して、わずか1か月後の話である。
私自身の校長経験を踏まえて言えば、新しく着任した校長が1か月で大きな変革を成し遂げようとするのは無謀である。5月といえば、まずは教職員との対話を重ねて人間関係を構築していくべき時期だろう。
ましてや、国立大学の附属校である。ビジネス系のドラマでいえば、職人気質の社員が揃っている支店に、取引先から新しい支店長が出向してきたようなものだ。最初は軋轢が生じて当然だろう。
ちなみに、現校長による「お詫び」のなかには、次のような言葉もある。
「本校の教員は子どもに対して実に丁寧にきめ細かく指導していたことは間違いなく(以下、略)」
・・・この褒め言葉が本心からのものなのか、それともリップサービスなのかは不明だが。
「現校長は、なぜ1か月で結果を出そうと急いだのか?」
「校長と職員たちとの間で、実際にどのような話し合いがあったのか?」
・・・この先は憶測になってしまうので、ひとまずここで終わりにしたい。(つづく)