【読書ノート】宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』
本作は、前回の記事で紹介した『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。この続編には、高校3年生の主人公・成瀬あかりが受験生活を経て京都大学の1回生となり、年越しを迎えるまでのエピソードが収められている。
成瀬を「ハブ」にしたネットワーク
前作は6つの短編によって構成されていた。この続編も、それぞれ異なる人物の視点で描かれた5つの短編によって成り立っている。
今回、新たに「成瀬あかり史」の語り部となったのは、成瀬を信奉する女子小学生、父親の成瀬慶彦、近所に住むクレーマー主婦、成瀬とともに地元の観光大使を務める女子大生だ。
彼女の父親は別格として、成瀬ファンの女子小学生のように自ら進んで彼女と関わろうとする者もいる。
その一方で、クレーマー主婦や観光大使の女子大生のように、不本意ながら、あるいは成り行きで成瀬に巻き込まれてしまう者たちがいるのは前作と同様だ。
成瀬自身は、けっして自分から進んで周囲とコミュニケーションを図ろうとしているわけではない。
それにもかかわらず、年齢も立場も異なる人々が次々と成瀬に吸い寄せられてしまうのは、彼女が強い信念をもち、タイトルにあるように「信じた道をいく」からに他ならないだろう。
言い換えれば、彼女が「ハブ」の役割を果たし、「成瀬ワールド」というネットワークを構成しているのだ。
成瀬の幼馴染である島崎の視点で描かれた最終話「探さないでください」には、本作の語り部たちが総出演する。それは彼女を「ハブ」とした「成瀬ワールド」の、未完のネットワーク図のようでもある。
AR(拡張現実)のような存在
前作と共通するのは、実在する地名や観光名所、学校などが登場するのに加えて、コロナ禍をはじめとする時代背景や、びわ湖大津観光大使のことなどがリアルに描かれているところだ。
成瀬をはじめとする登場人物たちは、琵琶湖や大津市などをフィールドにしたAR(拡張現実)のような存在だと言えるのかもしれない。
ちなみに、本作の最終話である「探さないでください」は、2025年の大晦日から2026年の元日という「近未来」が舞台になっている。
一読者としては、早く次のエピソードを読みたいという期待をもってしまう。けれども、実際の世界を背景にしていることが、成瀬の言動にリアリティを与えていることを思えば、現段階でもっと未来の物語を作者に期待するのは酷なのかもしれない。
おそらく、実際の時間の流れに合わせて、「成瀬あかり史」は少しずつ書き足されていくべきものなのだろう。
作中での成瀬あかりは、200歳まで生きることを見据えた人生設計をしている。彼女が本当に200歳まで生きるのだとすれば、「成瀬あかり史」が完結するのは約180年後のことになる。
作者の宮島未奈氏には、ぜひ長生きしてこの物語を完結してもらいたいものだ。私自身も「成瀬あかり史」を1年でも長く読み続けられるよう、健康には留意をしていきたいと思う。