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【読書ノート】石田明『答え合わせ』(マガジンハウス)

 本書の著者・石田明氏は、お笑いコンビ「NON STYLE」でボケとネタづくりを担当する人気芸人である。

 現在も舞台やテレビ等で活躍する傍ら、石田氏はラジオやYouTubeなどでお笑いに関する分析や解説を披露したり、NSC(吉本総合芸術学院)の講師として芸人を目指す若者たちに漫才論を語ったりしている。

 本書は、石田氏が「一流の現役プレーヤー」兼「切れ味の鋭い評論家」の立場から、お笑いについて解説をした一冊だといえるだろう。


 スポーツの現役選手や元選手のなかには、自らの技術や戦術について言語化をすることが得意な人とそれが不得意な人がいる。前者は、たとえば陸上競技の為末大氏、後者の代表は元プロ野球の選手・監督だった長嶋茂雄氏だろう。この本の著者である石田氏は、間違いなく前者のタイプだ。

 少年時代の石田氏は、他の芸人の多くが「クラスの人気者」「学校で一番面白い子」だったのとは異なり、お笑い好きだがオタク気質で目立たない子どもだったようだ。

 けれども、好きなお笑いに関しては、常に「なぜ面白いのか?」「どうすれば面白くなるのか?」を分析し、ノートに記録をしていたという。石田氏の分析力や言語化する能力は、こうして培われていったのだろう。

 それは、中学・高校の同級生だった井上裕介氏とコンビを組み、「NON STYLE」としてデビューしてからも続く。
「どうすれば面白くなるのか?」
 という問いを立て、その答えをネタとして表現し、観客の反応によって「答え合わせ」をする。石田氏は、ずっとそれを繰り返してきたのだ。そして、それは今も続いている。

「漫才とコントの違いは?」
「ボケの『量』と『質』ではどちらが重要か?」
「ツカミは必要なのか?」
「ネタ合わせはどのように行えばよいか?」
 等々・・・。

 本書は石田氏による「答え合わせ」の集大成なのだ。


 そうした「答え合わせ」のなかでも、とりわけ説得力があるのは「M-1グランプリ」に関するものだ。それは、お笑い芸人にとっての「M-1グランプリ」が、スポーツ選手にとってのオリンピックやワールドカップなどに匹敵するものだからなのだろう。

 優勝をすればもちろんのこと、決勝に進出しただけでも知名度や仕事量が大幅にアップし、人生が変わるとまで言われている真剣勝負の場である。「NON STYLE」も決勝進出を逃すことが何年も続き、2008年の大会で優勝を飾るまでに何度も挫折と苦悩を経験してきた。

 それだけに、
「最近のM-1ではなぜ『コント師』が活躍しているのか?」
「どうして準決勝でウケても決勝でウケないコンビがいるのか?」
「関東勢もしくは吉本所属以外の優勝者が増えているのはなぜか?」
 といった問いに対する「答え合わせ」には力がこもっているのだ。


 その「M-1グランプリ2024」の決勝が明日(12月22日)行われる。その決勝で石田氏は、2015年の大会以来9年ぶりに審査員を務めることになった。

 本書のなかで石田氏は、2015年の決勝の採点について、
「面白さ」
「真新しさ」
「技術」
「M-1らしさ」
「笑いの量」
 の5つの基準で各20点ずつ、合計100点として審査をしたと明かしている。

 明日は、決勝に進出した10組のパフォーマンスとともに、審査員としての石田氏がどのような「答え合わせ」をするのかについても注目をしてみたい。

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