紫色の太陽
小学6年生の悠美は、部屋で読書感想画の宿題に取り組んでいた。図工の授業中に描き終わらなかった者は、明日までに家で仕上げてくることになっているのだ。
悠美が読書感想画の題材に選んだのは、「遠い国に一人で置き去りにされた少年が、孤独や困難と闘いながら、最後には故郷へ帰り着く」という物語である。悠美はその話の中から、主人公が夕暮れの大草原に佇む場面を選んでいた。
・・・あとは地平線に沈もうとする夕陽を描けば完成というところで、悠美は肝心の赤い絵の具が切れていることに気がついた。代わりに使えそうな色を探したが、夕陽のイメージに合う色がどうしても見つからない。
悩んだ末に、悠美が手に取ったのは紫色の絵の具だった。
(これで太陽を描くのは変かな)
と迷ったが、描かないよりはいいだろうと思い直し、そのまま紫色で太陽を塗り上げた。
数日後、廊下に掲示された悠美の絵は、教師たちの間でも評判になった。担任のY先生も、
「紫色の太陽がいいね。主人公の不安な気持ちがすごく伝わってくるよ」
と、大絶賛である。
悠美はこのY先生のことが好きではなかった。何でも自分の考えを押しつけようとするし、露骨に一部の子を贔屓するからだ。
そんなY先生が夕陽の絵を絶賛していた様子を思い出して、悠美は噴き出しそうになった。
(紫色の太陽がいいねだって? 赤い絵の具がなかっただけなんですけど。大人ってバカだな〜)
いつの間にか、真相を隠しているという後ろめたさよりも、Y先生に対する優越感のほうが勝っていた。
(とりあえず、この切り札は使わずに取っておこう)
悠美は、夕陽の色を決めた本当の理由について黙っていることにした。
その一方で、改めて自分の絵を眺めてみた悠美は、夕陽を紫色にしたのは正解だったのかもしれないと思いはじめていた。
これが赤い夕陽だったら、どこにでもある平凡な絵になっていたことだろう。主人公の心情を表すのであれば、この夕陽は紫色以外になかったようにも思えてくる。Y先生のことは好きではないが、言っていることは正しいのかもしれない。
だが、それはちょっと癪に触る。
(そうだ。今度は、たとえ赤い絵の具があったとしても、紫色を選べるようになってやる!)
悠美はそう思った。