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氷見民宿で味わう冬の味覚

 氷見市中心街を過ぎて北方向に位置する、城ケ崎に近く、富山湾の入江に沿った海辺にこの民宿はある。すぐ目の前に日本海が広がり、磯の風と香りが心地いい。部屋の窓からも海が見渡せ、晴れた日には海岸線の向こうに雪に覆われた立山連峰が一望できる。時々、かもめが鳴きながら飛び交う。
 
 この宿で仕入れる魚介類は皆、地元富山湾で漁獲され、年間を通して新鮮な料理が食卓に上る。米や野菜も地物の旬の食材を用い、季節の味でもてなしてくれる。
「海が時化ると魚が捕れませんので、献立はその日によって変わります」とおかみさんは話す。
 
 前菜には烏賊の赤づくり、子持ち昆布、なまこの酢物。他、蟹の酢物や魚介のマリネ風サラダ、お造りは鰤やあおり烏賊、白海老、赤鯛。鰹の焼いてほぐした身を大根おろしであえた物が並ぶ。
 手作りの烏賊の赤づくりはこくがあって、魚介のマリネ風サラダも烏賊や海老の旨味が酸っぱさと合ってさっぱりとしたおいしさだ。次々と箸が進む。お造りの鰤は腹身もあり、いずれも新鮮な旨味が口一杯に広がる。赤鯛のコリコリとした食感、白海老の上品な甘みが舌の上でとろける。
 
 氷見港で捕れる寒鰤の最盛期は12月から2月。この時期、こちらで捕れる鰤がおいしいと言われるのは、産卵のため厳冬の日本海を乗り越えて南下した鰤が脂を蓄えるからだ。冬の時化を避けて富山湾に逃げ込み、氷見湾で捕獲される頃には脂がのりきって最もおいしい鰤が捕れる。
 
 氷見港では、これを魚体を傷つけないよう定置網を張って水揚げし、沖合ですぐ氷水につけて活締めにすることでより鮮度を保っている。
 呼び方が変わることから鰤は出世魚として知られ、氷見では幼魚から順に「こずくら」「ふくらぎ」「ぶんど」そして成魚を「ぶり」と呼んでいる。
 
 楽しみにしていた蟹の酢物も運ばれて来る。蟹は新湊から今朝、捕れたてのものだ。口に含むと、えもいれぬ甘さがある。
 この新鮮さを味わえるのは、日帰りの魚と言われる新湊の蟹が毎日出港、毎日帰港し、水揚げから生きたまま出荷することで鮮度を保っているからだ。本ずわい蟹は11月から解禁、更に深海で捕れる紅ずわい蟹は9月半ばから5月までが漁獲期である。
 
 次々と食繕に並ぶ握り鮨はスズキ、甘海老、メジ鮪。新鮮で、甘みが濃い。ひんやりとして喉越しが良い冷たい麺は氷見沖で捕れる「ながら藻」という海藻が練り込まれている。
「ながら藻」は12月下旬から穫れる海藻で、海藻独特のミネラルが豊富とされる。酢物や味噌汁、天婦羅などによって食される。
 
 素材を生かした味付けを心掛けているというおかみさんに味付けや料理法について伺ってみた。

「魚は皆、春、夏、秋、冬、時季に食べないとおいしくないです。鮟鱇は冬、蟹は12月です。また、魚によって料理法もあります。鯵は刺身がおいしいですし、鰤は脂がのっているものは塩焼き、脂がのっていないものは照焼きにします。鰹も、いろんな大きさがありますから、こちらで捕れるものは小さめなので、焼いて食べたりします」
 
 手頃な料金で食べきれない程の料理が後から後から運ばれて来る。食べきれない分はパックに入れて持ち帰らせてくれる。家族連れでもゆっくりできる時間帯で、温泉に入って温もった体で食べる食事は、どこか懐かしい家庭的な味わいがあった。

 *氷見港で400年前から行われている定置網漁法とは、「垣網」や「身網」、「落とし網」など、いろいろなしくみの網を巧妙に組み合わせて、魚をなるべく傷つけず、生きたまま水揚げするように工夫した漁法。
 
 

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