【怪談】トリガー

Aさんの会社にはオバケが出ると噂の倉庫がある。
口を大きく開けて声を出さずに笑っている女が出るらしい。
その女を見てしまった者は、奇妙な音を聞いたり、誰もいないのに人の気配を感じたり、怪奇現象に悩まされるという。

頻繁に目撃情報があり、2日に1回はロッカールームで目玉の話題となっていた。

ある日、新人が入社した。
Aさんは怖がらせようと思い、新人に倉庫の話をした。

「あのね、この会社オバケが出るんだよ。廊下の突き当りの倉庫、わかる?そこなんだけど・・・」

Aさんがそこまで言うと新人は突然話を遮った。

「Aさん、それ以上はダメです。自分、昔からそういうの見えるんです。こういう類のモノって無条件に人に取り憑いたり悪さをしたりするやつは少ないんです。きっかけになる動きを人間側が起こさない限りは、ただそこにいるだけなんです。この会社にいるやつもそうです。何がトリガーになるかは個体によって違うんですがここにいるやつは、存在を認識していることを本人に気付かれる、それがトリガーになります。だから、そいつの話を口に出すのは危険です」

そして新人はこう続けた。

「今からの話には、相槌打たないでくださいね。独り言です。自分は気付かれたとしても、ある程度対処できるので大丈夫です。倉庫にいるの、無言で笑ってる女ですよね。今の状態なら話題にしなければ大丈夫です。でも、もし笑い声を上げ始めたら女の視界に入らないようにしてください。何をしたら笑い声を上げ始めるかの条件は、自分も分かりません。とにかく、こいつの話をしない。笑い声が上がったらもう倉庫には入らないを守ってください。お手数ですけど、他の方にもそれとなく伝えておいてください。では、失礼します」

そう言うと新人は行ってしまった。
実はAさん自身もこの女を見たことがあり、その話をした後に奇妙な音を聞いた経験がある。なので新人の話は全面的に信用したそうだ。

同じく女を見たことがある上司に相談した結果、何かあってからでは遅いので倉庫の中を空にし、立入禁止にすることになった。

数日作業をすると倉庫はだいぶ綺麗になった。このペースなら今週中には倉庫は空になる。

その日は他に誰も手が空かず、Aさんが一人で倉庫の整理をしていた。怖いが仕方ない。それよりも、早く倉庫を空にしたかった。

今日の作業はここまでにしようかな、と思ったとき少し先の床に小さな紙が落ちているのを見つけた。
近寄ってみるとそれは写真だった。一昔前に撮られたのか、年代が経ったような物だった。観光地らしき場所で女性が笑顔で写っている写真。
昔の社員旅行の写真かな?などと考えていると、Aさんはハッとした。

この女性、倉庫に出る女にすごく似ている。

そう思った瞬間、倉庫いっぱいにけたたましい笑い声が響いた。

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