レザー製品に加工革が多い理由〜シューケア講習まとめ❸〜
まとめ❸は補足としてお話した内容です
今回皆さんとお手入れを実践しましたが、
お店にはたくさんの革製品があり、 仕上げ加工によって今回のメンテ方法がそのままできないケースも多いです。
できない理由は❶で説明しましたがなんでそういう加工革がたくさんあるのか?
その辺の事情をわかる範囲で説明します。
まず様々な加工革がある理由としては
・布製品やニットなどのレザー以外の服飾雑貨同様、ファッション性やバリエーションをだすために加工するから
・防水とか強度を増すとか目的用途に対する機能性をもたせるために加工するから
などがもちろんありますが、レザーに関しては もともとさらに特殊な事情があります。
『皮革製品の材料の動物の皮にはシワ、キズなどが必ずあり個体差もあるので加工でカバーする必要があるから』
です。
レザー素材は動物の皮をそのまま利用してるので綿だウールだの織物・編み物の生地ほど均一で安定してるものではありません。
そしてさらに独特な事情があります。
哺乳類系の革は皮を取るために育てられた動物のものではありません。
『レザーというのはあくまで家畜を食肉用に屠殺した時の副産物を利用している』
レザー業界の方にお話をきくとほば100%でこの話がでます。
「食肉用に動物を殺すことを屠殺(とさつ)といいますが、その際にでる動物の皮を無駄にしないために利用しているのが皮革産業だよ」ということです。
”皮目的で動物を飼育してない、殺してない“
動物愛護とか家畜メタンガスによる地球温暖化問題とか、ビーガン的食生活への移行とか、時代の流れからか皮革産業への逆風要因は多く、業界全体でかなり危機感をもってらっしゃるようで業界の方は必ずこの話をされます。
そんな業界の厳しい現状はさておき
"レザーという素材は動物の皮を利用してる“
”だけど、皮をとるために飼ったり、殺したりしてるわけじゃない"
という、この独特の事情のためレザーには以下の特性があります。
1、もともと生き物の皮なのでシワや血筋がはいっている
ヌメ革だと素のシワや繊維の表情がわかりやすい。色ムラもあります。
2、もともと生き物の皮だから一頭一頭、一匹一匹で状態が違って個体差は大きい
肌質の違いとか、虫刺され跡とか、背中を木とか柵とかにこすりつけた跡とかがあります。
その上、例えば革の中で最も流通量の多い牛革であっても
3、もとが食肉用なので皮の状態は気にして飼育してない
あくまで肉を美味しく大きくするために育てますので『後から革製品にするために繊維の密度のつまったシワや傷跡の少ない綺麗な皮の牛を育てよう』ということにはなりません。
見た目の綺麗な皮は最初からあんまり期待できません。
(日本には北米産の牛皮の原皮がたくさん輸入されてます。
アメリカでは伝統的に牛の管理のために牛の背に焼印をおします。
未だその慣習は継続していて、ものによっては輸入した一頭分の原皮に3つくらいの種類の焼印がおされている場合もあるそうです。
もちろん焼き印部分丸々使えません。そのくらい気にしてない)
(吊るして乾燥中の革、わかりずらいですが焼き印跡です。)
上記1、2、3の理由から
もともとの原皮には「シワ、血筋だけでなく、スリキズ、ケガの跡、虫刺され跡、焼き印跡」など、あくまで家畜としてですが牛が普通に生きて成長してきた記録がかなり残ってます。
これを鞣して色だけ染めて何もせず使うとまんま「シワやキズや血筋だらけ」で使うことになります。
それを“なんとかしなきゃいけない“ということで色んな加工方法が開発されました。
ただまちがえてはいけないのはこれはあくまで見た目の良し悪しの話であって皮革本来の質とは別だということ。
皮質であるなら繊維の密度や揃い方、厚み柔軟性なんかを評価基準と考えるべきです。
傷なんかが多いほうが元気に暴れて健康に育った証拠だからホントは皮質がいいという話もよくききます。
見た目は悪いけど味はいい野菜や果物と似てます。
本来、革に関しては見た目だけの綺麗さや均一性を過剰に求めるのはやはりまちがってるんだと思います。
とはいえ、既製品としての靴やバッグ、財布なら見た目の綺麗なものがどうしても求められます。
だからこそ加工を施して皮を無駄にしないようにしてるとも言えます。
<まとめ>
革はもともと動物の皮だから
1、シワや血筋やムラがある
2、個体差がある
しかも食肉用の家畜の皮の二次利用なので
3、飼育中は皮の状態は気にしてない
だからシワ、血筋、キズ、虫刺され跡などがあり見た目の綺麗なものは最初からあまり期待できない。
でもそれはあくまで見た目の事で本来の皮質は関係ない。
『加工革が多いのはそんな皮を無駄にしないためにもシワ、キズなどを目立たないようにカバーする必要があるから』
長くなってきたので説明が途中ですが一旦終了して❹へ続きます
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