見出し画像

パンツ裾、タタキとパンツウエストのダシ詰め(洋服の修理をうける際に気をつけること❸)

1、つくり上(構造上)可能か 


についての続きです。

前回はパンツ丈上げを例にして「修理をうける際はまず、その修理が可能な“つくり(構造)“かどうか」からスタートという説明をしました。

「例えば“シングル→ダブルに変更“のような要望もあるので、あった際にまずつくり的にできるできないを確認しなきゃいけない」という内容でした。

確認するにあたって、
・シングルとダブルが「どういう構造でどういう作業でつくるのか」わかってれば間違いないということ
・シングル仕上げのまつり縫い(業務用なのでルイスミシンでのすくい縫い)も見るいい機会
なので、とりあえずそれぞれ動画をみていただきました。

※【で、一旦、また本題からずれますが、『シングル』、『ダブル』やったのでせっかくなので裾の『タタキ仕上げ』もついでに見ときましょう。】

おなじみの三つ折りステッチとよばれるカジュアルパンツの最もスタンダードな仕上げです。

たまたまデニムになってしまいましたが、どんな生地のパンツでもタタキはタタキで同様です。

裾の仕上げでシングル、ダブル、タタキがちゃんとわかれば裾関係の判断はわりとできるようになります。
修理に関してもちょっとだけ自信持って受けられると思います。

【注意】※仕上げの構造と修理のやり方わかれば自分でもジャッジできるようになります。が、ただ、“それ言い出したらキリないよ“で、何もかも判断するなら“洋服のつくり全部わかんなきゃいけない“ことになるので「日常的に頻度の高い修理(パンツ・スカートの裾始末やウエストの詰め・だしのやり方)」あたりの最低限必要なところをとりあえず把握していればいいと思います。


※本題に戻ります。


“つくり上(構造上)できるかどうか“で実は一番よくある注意すべきケースは『伸ばす、広げる、大きくする』です。

『詰める、短くする、小さくする』という時は、極論、縫製といて生地をきってしまえばある程度無理矢理できたりします。(修理屋さんまかせですが)

が、『伸ばす、広げる、大きくする』という場合はその分の生地がないと物理的にできません。

・ジャケットの袖丈伸ばす(だす)
・パンツのウエスト・ヒップ広げる(だす)

この二つはメンズドレスでは割と頻繁に受ける修理です。
みんな普通に承ってます。
“伸ばす“とか“広げる“はできないと言ったばっかりですが、なぜできるのか?

「はじめからできるようにつくってある」からです。

調整可能なつくり方(構造)でしかも余分の生地をあらかじめ仕込んでくれてます。
【例①】

画像1
(スラックス;ウエスト、後ろセンターシーム)

定番スラックス後ろ身です。通常ウエスト広げる時は後ろ身のセンターシームをあけて広げます。

画像8
(センターシーム:内側)

後ろ身センターの内側です。典型的なサイズ調整前提の仕上げです。内側の縫いしろにわざと生地を残し割り縫いしてます。サイズを大きくすることができるつくり(構造)になってます。

下の画像はウエスト・ヒップだし調整後です。(腰裏の縫製をといて上の画像の仕込んである生地を使って広げて、再度つくり直してます。)

画像7

このパンツはもともと4〜4.5cmだせる分の生地がとってあります。
画像は4cmくらいだしてます。(ちなみにウエストベルト部の裏地にあたる腰裏もだせるように生地が残してあります。)

「つくり上(構造上)可能か?」は「構造上できて、寸法上もできるか?」という方が正しいかもしれません。(前回のスソ「シングル→ダブル」も実はこれ)

ドレス対応のアイテムは習慣的に“サイズ調整するかもしれない“という前提があるので、修理しやすいつくり(構造)で余分な生地もとってあるというケースは多いです。

メンズドレスのジャケットやパンツ類がサイズ調整(特に広げる、だす)の修理が可能なのは最初っからそういうふうにできているからです。

逆に言うと、洋服全般で考えると大抵の場合はそうなってないので基本『伸ばす、広げる、大きくする』というのはできない修理という認識でいいと思います。

さらに言えば「詰める、小さくする」時も大抵の既成服は調整する前提じゃないので、スラックスパンツなんかよりデニムの調整を頼まれる方が色々と難易度高いです。
【例②】

画像10
(5ポケットデニム:ウエスト後ろ)

デニムです。こういうカジュアルアイテムのシンプルなものはサイズ調整する前提ありませんので、つくり(構造)も修理できるようになってませんし、余分の生地ももちろんないです。(だしは無理。)

画像11
(内側)

詰める場合、ウエストベルトにセンターシームありませんので、ウエストベルトのどこかを切らなくてはなりません。
他にも実は色々問題があります。

本体の後身頃のセンターシームは画像のように二本針二重環縫い(チェーンステッチ)ミシンでの巻き縫い仕様です。
ミシンにラッパというアタッチメントをつけて一発縫製です。
(デニム業界ではこの場所の縫製は難易度高めな部分として知られてるようです)
ベルトループのカンヌキステッチもカブってます。
バックヨークと重なるところは生地が何重にもなってます。
だいたい工場では専用ミシンで縫ってます。
お直し屋さんがミシン持ってればいいのかもしれませんが、、、
〈今回の蘊蓄ポイントです、気になる方は是非自分で検索を〉

色々薀蓄書いた感じですが修理の際はこういうことがいちいち問題になります。
ザックリいうとドレスのスラックスパンツより考慮すること(縫製方法、ミシンの種類など)が多くてかなり面倒そうです。
(そう思うとドレスもカジュアルもあらゆる修理をこなせる修理屋さんは設備も職人さんも両対応できるようにしてるということです)

下の画像は私物のチノパンです。

【例③】

画像6

このパンツはスラックスパンツと同様の仕様です。腰裏はありません。

画像7

このつくりなので有る程度のサイズ調整可能のはずです。(ウエストベルトの生地次第ですね)同じカジュアル用のパンツでもデニムとはつくりが全然違います。

いくつか事例をあげましたが商品も修理もケースごとに全て違うので、できるできないの決定的な見分け方とかがあるわけではないです。

頻度の高い修理に関してはできるだけ詳しく理解した方がいいですが、わからない時はわからないなりに対応するしかありません。(お預りして確認するなり)

修理を受ける際は『つくり上(構造上)可能か?』を考えることからスタートてください。

<まとめ>
・「つくり上(構造上)可能か?」は正確には「構造上できて、寸法上もできるか?」

・“広げる、伸ばす、大きくする“という修理は始めから調整可能なようにつくってないとできない(大抵の場合できない)

・カジュアルなアイテムの方が修理も簡単というようなことはない。(調整想定がないので無理矢理直して本当は面倒かも)

・判断難しいのでわかんない時は周りに相談を。無理な時は正直に“わからん“と言ってお預かりしましょう。


注意:この内容はあくまで既製品の洋服を販売するにあたって実際に発生する修理内容を前提にしています。その範疇を大きく超えるような内容は想定していません。(リサイズ、デザイン変更、改造レベルの修理など)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?