自己紹介&サイトマップ
私は物理系を自分で作って実験をしている研究者です.この記事を書き始めた時点では化学専攻の博士課程の大学院生でした.noteでは,私なりの話の筋の立て方と私の言葉で,主に物理の基礎を伝えていきます.夢は,教科書を作ること.分野ごとにマガジンに連載していきます.
現在の内容は次の通り.(随時更新)
序: 熱力学の目標
【熱力学1】状態の指定,温度とは何か【エネルギーと温度】
【熱力学2】自由エネルギー【熱力学におけるポテンシャル】
【熱力学3】自由エネルギー減少則【不可逆過程】
【熱力学4】一般化された力【つり合いの条件】
【熱力学4S】自由エネルギーの凸性と熱力学的な安定性
【熱力学5】エントロピー【熱力学の核心】
熱力学の教科書と私のノートの位置づけ【熱力学のさまざまな流儀】
【熱力学6】熱力学とルジャンドル変換【美しい熱力学】
【熱力学7】不可逆現象のエネルギー論【応答関数・複素感受率】
序: 統計力学の目標
【統計力学1】位相空間における力学の形式【力学的な状態と運動】
【統計力学2】典型性とミクロカノニカル分布【統計力学のモデル】
【統計力学2S】熱力学極限
【統計力学3】状態数と熱力学的重率【エネルギー幅の任意性】
【統計力学4】温度の統計力学的な定義【開放系でのエネルギーのつり合い】
【統計力学5】カノニカル分布【温度で指定された系】
【統計力学6】分配関数【自由エネルギーとの関係】
【統計力学7】ボルツマンの式【エントロピーとの関係】
【統計力学8】カノニカル分布の応用(古典編)【エネルギー等分配則とその限界】
【統計力学9】量子力学への道【状態は離散的に】
【統計力学10】量子力学的な粒子の統計【ボーズ分布とフェルミ分布】
【統計力学11】ランジュバン方程式から拡散方程式へ(予定)
序:量子力学的な世界観【ベルの不等式の破れ】
【量子力学1】物理系の状態と観測の記述方法【ミクロとマクロの間の切断】
【量子力学2】量子状態【重ね合わせの原理】
【量子力学3】密度演算子と測定の理論【量子情報】
【量子力学4】運動の法則【シュレディンガー方程式】
【量子力学5】物理量と量子操作①【運動量と波動関数】
【量子力学】物理量と量子操作②(予定)
【量子力学】調和振動子(予定)
【量子力学】場の量子化の方法(予定)
【量子力学】近似の方法(予定)
【量子力学】開放系のダイナミクス(予定)
【量子物性】バンド理論(予定)
【量子物性】超伝導(予定)
【量子技術】核磁気共鳴(予定)
【量子技術】量子光学(予定)
【量子技術】共振器量子電磁力学(予定)
【流体力学ミニマル・前編】流体力学の考え方【ラグランジュの方法・オイラーの方法】
【流体力学ミニマル・後編】流体の運動【ナビエ・ストークス方程式】
微分方程式の数値解析①【陽解法と陰解法とクランク・ニコルソン法】
微分方程式の数値解析②【反復法とPython上でのプログラミング】
【物理数学】極限とランダウの記号【定義と物理におけるその価値】
【物理数学】ポテンシャル【存在条件やマクスウェルの関係式など】
【物理数学】確率過程の定式化【確率論①】
【物理数学】マルコフ過程とマスター方程式【確率論②】
【物理数学】フォッカー・プランク方程式【確率論③】
【物理数学】大数の法則・中心極限定理(予定)
【物理数学】対称性と群論(予定)
その他・学振関連
学振申請書を書くときの心構えを一つだけ
学振面接の思い出
ポスドクの職探し
コンセプト
高校生や学部生に語り掛けるような雰囲気でやっていきたい.なるべく物理を学んだことの無い人でも理解できるようにしたい.ということで,物理を知らなかった大学一回生のときの私や,基礎を忘れてしまうかもしれない未来の私に教えてあげるつもりで書いています.(ただし回を重ねるにつれ,やや高度な内容も含みつつある気がします.わからないときはいったん気にせずに進むのがコツです.)
論理の流れを見通しやすくするために,コンパクトに,かつある程度厳密にまとめます.そのためにはどうしても数式は使わざるを得ませんが,それが物理を語るのに適した言葉だからです.式の意味はちゃんと説明しますから,あまり細かい数学にとらわれる必要はないと思います.定理の細かな証明などは普通は忘れてしまうので,あまり気にしないほうがよい精神衛生を保てるかもしれません.数学ができるからといって物理ができるわけではないことに注意しましょう.
ちなみに,物理の理論を構築するときに,始めに何を前提に持ってくるかには色々あり得るわけですが,私は測定できるものから考えるのが好きですので,そういう構成になっているかと思います.
あとは絵とか詩とか芸術的なものも好きなので,ときどき思い付いたかのようにアップするかもしれません.
noteに関する質問を歓迎します.また,一人で書いているので間違いもあるかと思います.間違っていると思ったときもコメントやツイッターDMにて連絡をください.メンタルはまあまあ丈夫なので,厳しい意見でも大丈夫ですが,私が傷つかないように優しく教えてくださる人が好きです.noteを通じて,色々な交流が生まれたら嬉しく思います.
私について
以下は私が今に至るまでを書いた自己紹介です.人生は人それぞれ素敵ですから,こんなものを読む意味はないことを保証します.それでもここに何か意味のある勉強や研究の姿勢などを見いだせたのなら,私が知りたいところですので,教えてください.
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私は東京で生まれ育ちましたが,小さいころから自然が好きでした.9歳のときに両親に顕微鏡を買ってもらって,藻とか昆虫の羽とかを見るのが楽しかったのを覚えています.高校生のときは生物部で,池や磯やそのへんの苔やらにいる生き物を採集して観察するのが好きでした.自然に興味があったので,科学者になりたいと,小さいころから思っていました.
高校生の頃,生物好きから理科の選択科目は化学と生物でした.私には化学の理屈がよくわからず苦手意識があったので,本当は物理と生物を選びたかったのですが,化学は必修でした.権威に逆らって化学を勉強しない方法もあったでしょうが,化学を学ぶのも確かに悪くはありませんでした.勉強して無駄なことはなく,化学に抱いていたよくわからないという気持ちに向き合えました.結局最後まで化学はよくわからないものだと思いながら,点数は簡単に取れることだけがわかりました.やはり大学に入ったら得意な生物を学んで,生物学者になろうと思っていました.
しかし興味だけで勉強ができるほど甘くはありません.無計画さも仇となってか浪人もしました.しかし勉強のことだけ考えていればいい浪人生の日々は楽しかった.あのときの勉強や出会った文章は確かに今の私を形作っています.
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一浪後,京都大学の理学部に入りましたが,授業はわけがわかりませんでした.無力感が募りました.化石を掘ったり,スッポンを観察したあと鍋にして食べたりする地学の授業は楽しかったと覚えています.一番わからなかったのは数学や物理化学の授業で,試験前には友達と集まって「勉強会」をしました.そして夜遅くまで熱中して,ロンドンオリンピックの観戦をしていました.
試験の出来は酷かったと思いますが,なぜか単位だけは取れてしまい,こうしてわからないことがもうひとつ増えました.こんなので単位を貰ってはいけないとは思いましたが,貰えて悪い気はしないものです.
そのかわり自主ゼミはよく開催していました.一回生のときに自主ゼミをやろうと私の背中を押してくれた人がいました.勝手に人の携帯から自主ゼミの案内メールを送るやんちゃなその人がのちの親友ともいえる友人です.初めは誰もがビギナー,というのは彼の言葉で,当たり前のことなのに私は何かを始めるのに躊躇いそうなときはいつも思い出し,始める勇気をくれます.
自主ゼミなどで細々と生物を勉強していましたが,不幸にもなんだかやりたいことと違う感じがしてきました.たくさんの現象が細かく書かれているのですが,なぜそうなるのか,という問いには答えが無いように思えました.今思えば,生物学は複雑な現象を扱っているので,仕方の無いことなのでしょうが,不満でした.私は多様性よりも普遍的な仕組みのほうに興味がありました.
そうしたら徐々に物理をやりたいと思うようになりました.数式での簡潔な表現に心踊りました.しかし私は物理の中でも「素粒子」とか「宇宙」とかの壮大なテーマよりも,身近な物理に興味があり,また,生物への興味も捨てきれませんでした.そこで,生物と物理の「あいだ」をとって化学を専攻してみることにしたのです.今までやってきた生物を捨てて苦手だった化学を選ぶことにしたのは,大袈裟に言えばコペルニクス的転回です.
化学は,実際に自分にはちょうどよかっただろうと思います.化学は,実験と理論のバランスが良いと思います.「世の中わからないことだらけですから,実験してうまくいったらまあいいでしょう」というような寛容の精神が化学にはあると,私は感じます.その精神は大切にしたいと思っています.しかしいつかは,そんな複雑な自然の中に潜むシンプルな物理を理解したいとも思いました.
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物理を本格的に学び始めたのは大学院に入ってからです.だいぶ遅れをとっていますが,その頃にはもはや,わからないということには慣れっこだったので,物理の勉強で少しくらいわからなくても楽しめるようになっていました.勉強しているとわかることも少しずつ増えてきますが,わからないことの増加速度のほうが大きいのは当たり前で,わからないことに慣れることができたのは,大学での一番の進歩といえます.
遠回りをした気がしますが,今はそれなりに面白いテーマを研究できていると思います.私の研究テーマについて詳しく書くことはしませんが,化学科に所属しながら物理っぽいことが出来ていて満足です.最近になって私は,物理と違った化学の素朴さを愛していることにも気が付きました.物理は極限をとって美しさを抽出しますが,化学は物理の苦手な「中途半端」な状態を受け入れるおおらかさがあり,生き生きとしています.
ときに自分の専門分野はなんなんだろうとか悩みますが,まあそれも良いでしょう.頭の回転は相変わらず遅いものの,考えることは好きなようで,ずうっと考えていられます.むしろその要領の悪さを個性に,みんなが気づかないような素敵な研究をしていくことが私の人生の目標です.