学振申請書を書くときの心構えを一つだけ
この度,日本学術振興会特別研究員(通称:学振)に採用されました(とっても嬉しい!).学振とは「我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資すること」を目的とした制度です.博士の学生にとっては,生活費が貰える数少ない制度ですし,職歴にもなるので,応募しない手はありません.私は,書類選考で面接候補になり,面接の結果採用されました.それまでにも学振DCに2回応募しましたが,いずれも不採用C(一番悪い評価)で,3回目にして逆転採用となりました.
落ちたときと受かったときで得られた教訓を踏まえて,申請書を書くときに大切だと思ったことを(これからの私のためにも)まとめておきます.以下で話すことは学振の申請書に限らず,何かを人に説明するときに共通して大切なことでしょう.私はたまたま学振に申請することを通じて,以下の重大さを思い知らされたので,忘れないように書き留めておくのです.
相手のことを考える
相手(審査員)のことを考える.つまり,思いやりの気持ちをもつこと.これに尽きます.
審査員と申請者の専門分野は一緒ではない.専門の近い人が選ばれるはずですが,研究は細分化されているので,少しでも違う研究はほとんどわからないのが普通です.しかも,何人かいるすべての審査員から評価されなければなりません.
そして,審査員はとても忙しい.さっさと点数をつけて,早く審査なんて終わらせたいと思っています.
審査員フレンドリーな申請書を書くべきです.そのことを踏まえて,「我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資すること」という目的に適うような優秀な人材であることを審査員にアピールしないといけないわけです.私は学振申請では次のことを意識しました.
(1)申請区分を考える
まず,どんな申請区分があるかを良く調べることです.相手が何の専門家であるかを知らないと,何を説明すべきか何を省くべきか考えることができないからです.
自分のテーマにぴったりくるような区分がない人も多いかと思いますが(私もそうでした),自分の研究の魅力を一番伝えやすい区分はどこかよく考える必要があります.そのために,私は次のKAKENのページ
に研究区分名を入力して検索し,具体的にどんな研究があるのかを調べました.
私は不採用だった二回は物理化学の分野に出したのですが,三回目で工学系科学の分野に切り替えました.そして出した区分に合わせてストーリーを考えました.初めからそうしていれば不採用Cではなかったかもしれません.
(2)ストーリーをわかりやすく
少年漫画などでの王道の展開は,「何か困難にぶつかって,ピンチに陥るけれど,主人公が突破口を見出して困難を乗り越える」,という展開です.王道の展開はわかりやすく面白い.人を感動させます.色んなストーリーの立て方があるでしょうが,研究のストーリーもこの王道展開になるようにするのが,わかりやすく面白いストーリーになります.審査員だって面白い話を読みたいはずです.
このような展開で私は申請書を書きました.問題点にぶつかりますが,その鮮やかな解決策を自分自身で見出すところが話の盛り上がるところです.
ただし,研究の問題設定は,きちんと答えられる問であることが重要です.答えのない問は問題の立て方が間違っています.解決策の説明ではアカデミックな説得力を持たせること,そして問題の解答として何を達成するのかを伝える必要があります.なぜ今まで解決されてこなかったのか,そしてなぜあなたがそれを解決できるのか,という審査員が浮かぶであろう疑問に答えていると説得力があります.
(3)読みやすく・見やすく
難しい専門用語は絶対にやめましょう.易しい言葉で説明するのはとても難しいと思いますが,よく本質をとらえた易しい表現を探しましょう.学部生に説明するくらいの気持ちで書くのがちょうどいい.専門用語は最低限に!
また,長い文章は書かない,指示語を多用しないといった基本的な表現の技術にも気を遣うべきです.頭を使わせないような文章を書いた方がいいに決まっています.
図も効果的に使いましょう.正確さよりも,シンプルに,誤解を与えない図を描くことに重きを置きましょう.複数解釈ができたり,説明されてない概念が表現されていたりなどの,わかりにくい図は非常に印象が悪い.図の作成を面倒がらず,何度もよく練りましょう.
美しいデザインにすることも思いやりの世界です.漢字とひらがなをバランスよく使うこと,余白を適度に空けること,美しいフォントを使うこと,強調したいところにはゴシック体を使うことで申請書は見やすくなります.
ちなみにフォントは(Windowsなら)和文は游明朝,欧文はPalatinoをおすすめします.欧文はTimes New Romanでも良いと思いますが,個人的にはPalatinoの方が和文との相性が良くて好みです.
ゴシック体としては游ゴシックやNoto Sans CJKをおすすめします.Noto Sans CJKはフリーでダウンロードできる美しいフォントで,しかもウェイト(文字の太さ)がたくさんあって非常に重宝します.
「科研費LaTeX」で書く場合は,プリアンブルに次のように記述することでフォントを指定することができます.
\usepackage{mathpazo} % 欧文および数式をPalatinoに
\usepackage[noalphabet]{pxchfon} % 和文フォントを以下で指定する
\setminchofont{yumin.ttf} % 游明朝
\setgothicfont{yugothb.ttc} % 游ゴシック
(4)採点しやすく
審査員はとにかく点数を付けたい人たちです.審査員は点数をつける根拠を探しています.したがって,どう点数をつけていいかよくわからないような申請書はいい点数はもらえないでしょう.評価基準が書かれているので,その項目の通りに書くべきです.たとえば,「 研究の特色・独創的な点」を書く欄では
を書くように指示されているので,本当にその通りに書くことが大切です.「これが特色で,これが位置づけで,これが将来の見通しね」とパッと見でどこに何が書かれているかわかるような申請書にして,「あとはご自由に点数をつけてください」というような申請書が審査員にとって嬉しいはずです.
ちなみに,今年度から,この「研究の特色・独創的な点」の欄が増えているようです.申請者のオリジナリティがより重視されて採点されていることがわかります.私も「なぜ私がその研究をするのか」「なぜその手法を選んだのか」など,申請者自身の考えや,申請者だからこそできることが伝わるようにアピールするように意識しました.研究の内容の説明だけでなく,それを選んだ理由こそ知りたいところなのだと思います.
また,最後に「研究者を志望する動機、目指す研究者像、アピールポイント等」の記述欄もあります.ここは研究とは直接関係がないので手を抜きたくなるかもしれませんが,手を抜かずに最大限自分のオリジナリティをアピールすることが差別化につながると思います.申請書で見られるのは研究内容だけでなく,人も見られるのだと思います.(特に私は面接も受けたので強くそうだと思います.)
申請書を書くメリット
面倒な申請書作成ですが,私にとって,得られたものも大きかったです.それを最後に述べておこうと思います.
自分の力で考えた研究テーマを,人に説明して納得してもらうことで自信につながりました.また,いろんな人に申請書を見てもらったので,私を支えてくれる人がたくさんいることを実感し,心強い気持ちになりました.支えてくれた人,応援してくれた人には本当に感謝しています.
私の場合は二回落ちたことで何度も申請書を書く練習にもなったし,面接もよい経験になりました.なんとか採用までこぎつけたわけですが,採用されたことで,日本を代表する研究者になりたいという気持ちを持つようになりました.今後,良い成果を残せるように頑張ります.
参考文献
わかりやすい資料の作り方として,たとえば次の本が参考になりました.
この本でも,表現における「思いやりの気持ち」の大切さを,さまざまな具体例とともにわかりやすく説いています.
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P.S. 面接のときの心構えや面接の思い出なんかはまたいずれ書こうかな,と思います(10月18日書きました!).また,私がどういう人かは
こちらの記事を参照ください.