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【小説】あかねいろー第2部ー 41)勝負の夏ー花火大会①ー
定期戦の終わった次の週の水曜日に、学校の近くの神社でお祭りがあり、夜には川沿いにある少し大きな沼で花火大会がある。今まで2年間はスルーしてきたけれども、毎年、誰と誰が二人でいっただの、何人かで出かけて誰それに声かけただの、高校生らしい話題に事欠かないイベントだった。
今年は、沙織たちと花火を見に行く。男子3人女子3人。
花火大会は19時半から30分程度。その前に神社のお祭りに行くために、17時に高校の西門に集まることにする。流石に、正門前で堂々と女子と待ち合わせをするのは憚られた。
僕らは、立川と僕と、立川の同じクラスの男子が一人。女子は、沙織と、立川の友達の子と、その二人と予備校で同じクラスの子という取り合わせだった。僕以外の男子二人は、女子3人とは面識がある、女子のうち二人は僕とは面識がない。
梅雨が明けたのが例年通りで、今日はその5日後で、日中の気温は35度を超える猛暑日。天気予報は夕方の雷雨を警戒すべしというものの、雨の匂いは全くしない。深い水色の空は、どこまでも続き、ほんの少し歩くだけでも汗が滲んでくる。
そんな素敵な、夏らしい夏の午前中、僕は自宅の2階で、明けられる窓を全て開け放ち、畳の部屋の上で大の字になってみた。
あれこれ考えてもしょうがない。本当は嫌だったけれど、立川がそうしようというので、グレーの甚兵衛だけ用意した。僕としては、短パンにTシャツが良かったのだけれど。
夏の雲が好きだ。低いところで、力強く青い空を食べようとしている白い雲。そして、遠くの方で上空に向かい湧き上がるように増えていく分厚い濃いめの白い雲。雲を見ているだけでも飽きない夏が大好きだ。
15時半過ぎに着替え、最寄りの駅まで歩く。35度を超える暑さも、休みの日の高校ラガーマンにとっては、それほど苦ではない。ただ、喉は乾く。駅に着くと、早速麦茶を買おうとするものの、ふと立ち止まる。沙織は、麦茶が好きではなかったような気がする。確か。ほんの2年近く前のことだ。けれど、はっきりとは思い出せない。でも、僕は麦茶ではなくて、横の緑茶のボタンを押す。
電車をふたつ乗り換えて、急行電車に乗り、席に座る。終点までは20分ほど。その駅では、立川たちと合流することになっている。
緊張するなというのが無理で、僕は、昨日もすんなりとは寝付けなかった。最近は、ラグビーの試合でもそんなことはないのに。
電車の窓からは、市役所とその横の図書館が流れていき、次第に雑木林が多くなる。雑木林、住宅街、たまに工場、また雑木林という流れを続けて、だんだんと、住宅街のケースが少なくなり、代わりに田んぼのケースが増える。停車した駅では、近くの高校生たちがたくさん乗り降りする。この駅は、1年の終わり、高田が意識不明になった時に入院した病院がある。あの時は、沙織とはすでに別れていた。
その駅を過ぎると、しばらくは田んぼと畑が続き、大きなボトリング工場を超えると、次第に住宅街が増えてくる。そうして、次第に街らしくなっていき、僕らの高校の最寄り駅につく。
いつもと同じ風景。いつもと同じ夏の匂い。そして、いつもと違うこれから。そのコントラストが鮮やかで眩しい。
「なんだよ、吉田と俺の甚兵衛、色味がほとんどおんなじじゃん」
開口一番、立川が茶化す。そう?同じでないことは、明白だと思うけれど。
「ま、ちゃんと着てきただけよしとするか。うんといったけど、本当は着てこないかもな、と思ってた」
「なんで?」
「吉田だからさ、そういうのが」
「ふむ」
きっとそれは誉めているのだろう。そう思うことにする。
「何か買っていく?」
「うちわぐらいは欲しくね?」
「確かに」
「ロフトでちょっと見ていこう」
団扇ぐらいその辺りで配っていてもおかしくなさそうだけど、時間もあるので、ロフトを歩いて、夏祭りっぽい団扇を3つ買っていく。いくつ買っていくべきかはわからなかった。そもそも、僕は別に団扇なんていらない。
「まあ、きっと役に立つよ。祭と団扇はセットみたいなもんだから」
立川が全てお会計をして、得意げに話す。
学校までの道のりは、例によって作戦会議をする。毎度毎度、大して役に立たないし、作戦通りになった試しはないのだけれど。
「吉田は、沙織と何か話したの?」
「いや、特には」
「本当に? 二人で何しようとか、どこか見ようとか」
「全く。そもそも2週間前にLINEして以来、LINEもしていない」
立川は呆れた顔でこちらを見る。
「お前って、そういうとこ、ほんと使えないよな。何もなしかよ。モテないわけだよ」
その通りなのだろう、きっと。
「うるさい」
僕は立川のケツをパシリと団扇で叩く。
学校に着いたのが16時40分くらいで、待ち合わせまでは20分くらいあったので、彼らはラグビー部ではないけれど、部室で時間を潰すことにした。スマホの充電もしておきたかった。
部室に行くと、笠原と小道が先に来ていた。
「お、やめたやつが来た」
と立川を茶化す。
「何してるの、こんなところで?」
「それはこっちも同じ気持ちだけど・・・・そりゃあ、祭りだよ祭り。笠原が彼女と行くっていうから、友達紹介してもらうことにした」
笠原に彼女がいるなんで初耳だったが、笠原に彼女を紹介してもらう小道も意外だ。
「吉田は、沙織と会うんだぜ」
いらぬことを立川が言う。
「沙織? だれ?」
「星野と付き合っていたやつ。あ、その前は、吉田と付き合ってたんだぜ」
笠原が目をぱちくりさせる。
「お前ら何やってんだよ。おんなじ部活で女の取り合いかよ」
「笠原は、彼女?」
「俺は、小学校からの同級生だ。この春に告白された」
「告白??脅迫の間違いじゃなねえの」
笠原が僕を蹴ってくる。
「なんだよ、じゃあ、みんなで同じとこか。もしかして、17時集合?」
小道がいう。
「そう」
「西門?」
「正解・・」
4人が鼻で笑い合う。
「全くもって、頭の中身が同じだな、こりゃ」