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【小説】あかねいろー第2部ー 75)作戦準備 ー楕円という形をいかす?ー

 2時間ほどしてから、レギュラー組が集まり、ゲームに向けてのプランを確認する。特に新しいことはない。しっかり、エリアをとりに行き、FWのモールを中心に取り組んでいく。キックゲームについては、たとえ多少のビハインドになろうとも、そこでリスクを冒すべきではないだろう。まずはきちんと沖村以下の相手のキッカーにプレッシャーをかけよう。ここに尽きる。そこをサボらずにやれるかだということになる。明日からの練習も、キックチェイスと、キックを蹴られた後の動き方を中心に確認をしていくことになる。
 また、モールについては、簡単に廣川工業がトライまで行かせてくれる相手ではないのはわかっている。トライまでいけないことを前提に、特に、ゴールライン近くでは彼らのディフェンス力は倍増するので、その前までのエリアから勢いをつけてドライブし、そうするとゴールラインを割れないけれど、必ず、相手が引き倒したように見える崩れ方をするので、そこでペナルティをもらいにいく。(これは、1つのモールの形として取り組んできている)さらに、モールが止まった後のプレーとして、小道のドロップゴールを大きな選択肢にしていく。つまり、3点でいい。3点でいいので刻んでいこうということだ。期せずして桜渓大付属との試合がノートライでの勝ち上がりになったけれど、FWにこだわるならば、なおさら、相手が強ければロースコアな試合を想定すべきで、トライよりもスコアにこだわるのが必定と思えた。

 火曜日から、日曜日に向けた練習がスタートする。
 この1週間は、野球部が僕らにグラウンドをあけてくれる。(彼らの秋の大会は早々に終わっていた)そのため、普段の倍くらいの領土を得て、僕らは大いにキックゲームの練習をする。
 キックオフについては、沖村のいない方を狙い、奥まで蹴り込むことを決める。22mの内側まで蹴っていき、そこに笠原や清隆などのバックス陣が全力でプレッシャーをかける。ここは、笠原のスピードを大いに活用する。直線的に全速力でチェイスするので、すぐに交わされてしまうけれど、相手の動きが止まるのは間違いなく、そこからは大きなゲインになりにくい。22m付近でポイントになれば、そこからタッチに蹴っても次は敵陣でマイボールのラインアウトからスタートできる可能性が高い。
 その練習の向こうで、僕と新田などのバックスリーのメンバーは、キックキャッチとキックチェイスの確認をする。
 グラウンドを縦に4エリア(10m、10mと22mの間、22m、自陣10m付近)に分け、横は5エリアに分ける。(左5m、左15m、真ん中、右15m、右5m)そして、それぞれのポイントでキャッチした場合の、蹴り返すゾーン、あるいは蹴り返すキックの種類の確認をする。特に、エリアと利き足と、自分のキックの飛距離から、落とし所というのは大いに変わってくるので、そこを今一度頭にいれる。
 同じポイントから、蹴り返すべきエリアへのキックを何度も何度も練習するのだけれど、新田のキックが下手くそすぎて、笑いが溢れる。僕がキックの落とし所に立つのだけれど、全くそこにキックがやってこないし、ヘンテコなバウンドになったり、変な回転になったり。とにかく、不安定なボールばかりが返ってきて、その1つ1つのキックを拾うのに随分と苦労する。
「吉田先輩の練習のためにわざと蹴ってるっす」
と新田がいう。そんな彼の蹴ったボールは、フライにならず、強烈なライナーになって、僕の前で転がり大きく跳ね上がる。
「馬鹿野郎・・・」
そうこぼして背走する。背走しながら、ふと思う。これって、沖村も同じじゃないのか、と。
 彼にとっては、僕らのキックの精度やエリアなどほとんど想定の中だろう。僕らがこうやってセオリー通りのキックをしても、いいキックであればあるほど、彼にとってはとりやすいのかもしれない。
 逆に、想定もしないキック、綺麗なキックではなくて、不規則なキックであればあるほど、彼が不測の状態に陥る可能性は増えるのではないだろうか。
 練習の合間に、僕は小道に話しかける。
「なあ、蹴り返しのキック、必ずバウンドさせるようなものにしてみないか」
小道は不思議な顔で僕を見るけれども、すぐに言いたいことを察する。
「いいかもな、それ。ちょっと練習してみるか」

 僕と小道、そして笠原で、その日の練習後に少し居残る。笠原を沖村に見立てて、彼の前に、ライナー製のキックや、彼の左右に、距離としては短くとも、ノーバウンドでは取れないボールを蹴り続ける。
 ラグビーボールは、いうまでもなく楕円形だ。バウンドは、蹴り方や転がし方で、ある程度はコントロールできるけれども、根本的には、不確実だ。ゴロならば、真っ直ぐいくけれども、急に跳ね上がったり、その逆になったりするし、フライからのバウンドは、流石に読むことはできない。練習台にされている笠原からは不満の声が上がる。
「おい!めんどくせえんだけど。ボール拾うのが」
「お前の瞬発力のトレーニングだよ」
小道が茶化す。
 2人で50回ほど蹴り込んでみる。途中で笠原はギブアップし、2年生が引っ張り出されてくる。
 確かに、綺麗に蹴った時よりも、確実に、取るまでの時間は要する。ただ、手前で跳ねさせると、どうしても距離はさらに短くなる。そして、バウンドによっては、短い上に、走り込んで取れるので、最悪のキックになってしまうこともある。
「少なくとも、イライラはするな。受ける方は」
僕と小道は帰り道にももう一度話し込む。リスクはあるように思う。本当ならば、彼らの頭を超えるような大きなキックが蹴れることが望ましい。だけれども、それは無理なのだ。ならば、その逆、というのは方法としてはありかもしれない。そして、何よりも、笠原よりもずっと気の短い沖村を、十分にイラつかせることができるようには思えた。

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