【小説】あかねいろー第2部ー 33)僕のプライドは最後の一撃で崩壊
ランパスの後は、二人組に分かれてキック練習をし、次にバックスとFWに分かれ、バックスは早速ラインを2本作って、コーチからの指示を受けながら、ラインでの球回しに取り組んでいく。ラインは短くとり、その反面、かなり深い位置で立ち、そこから、SOの動きに合わせて、全体的に少し斜めに向けての展開を練習していった。
僕らは、常に「縦に、まっすぐ」というラインでしか取り組んでこなかったので、斜めに走る感覚は、なんとも居心地が悪かった。ただ、多くの参加者たちに取っては、そんなに珍しいことでもないようで、角度がどうとか、アングルがどうという話が飛び交っていた。僕は、取り組み方のエッセンスを理解したり、みんなの話についていくのが精一杯で、明らかに金魚の糞状態だった。
休憩を挟んでから、バックスだけで、タックルなしの7人同士での紅白戦があり、ここでは、サインプレーやディフェンスのシステム、考え方についてのレクチャーがあった。ディフェンスのシステムについては、僕らはあまり取り組めていない自覚はあったのだけど、こうしてこのレベルの中に入ってみると、ほぼ「無策」であることがわかった。まずは、ディフェンスについて、オフサイドコントロールを誰がしていくか、あるいはどこに自分達はラインを引くか、僕らは、単にSOが両手を広げて、ここより下がれ、という姿勢をとるくらいだったけれど、ここからして全く違った。
今回は、アウトサイドセンターが基本的には一番最初に飛び出していく形を取るため、ディフェンスラインのリードは、外のセンターが取り、そこをみることになった。要は、被せるディフェンスをするということで、SOからみんながヨーイドンでがむしゃらに前に出ていくというような話はまるでなかった。また、外のカバー、さらには、インサイドのカバーなど、ラインブレイクをされた後のスペースを誰がみるか、その約束事も確認があった。この辺りも、僕らは、一度も考えたことのない話だった。
何もかもが、新鮮だし、そこに僕としては大きな学びがあった。とても有意な機会だった。しかし、僕が、このメンバーの中で、中心的な存在でないことは、間違いなかった。
そんな僕に、最後の一撃となったのが、コンタクトバックを持ってのタックル練習だった。
僕の相手は、同じ位置ということで、FBの広下だった。彼は、サイズ的には、身長は僕よりも少し小さく、体重も同じくらいに見えた。
僕は、スキルやスピードは、このレベルでは自信はなくなったけれど、強さに対しては、必ずやれるという強い希望的観測を持っていた。それは、これまでの試合での手合わせの中で、実際胸を合わせて、肩をぶつけ合ってきた中での感触で、間違いないものだと思っていた。
バックスは、2列に並び、コーチがブルーのコンタクトバックを持って待つ。そこに向けて、最初は、選手が一人、地面で横になり、ボールをお腹のところにダウンボールしている状態になり、その上をオーバーする形で入っていく。単に強く入るだけではなくて、ボールの位置、味方の状態をしっかり確認した上で、絡んでくる相手を想定して、その相手を掃除していく、そういうイメージで取り組むようにということだった。
一人目をタウファが買って出て、走り出す。普段の彼の走り比べて明らかにゆっくりだ。しかし、低い。腰の位置が、ボールを持って走る時に比べて、ボール1個分くらい低く見える。そして、ある1点で、彼は解き放たれたかのように、そして、地を這うような低さで、コンタクトに突っ込む。その当たった時の低く、鈍く響く音にまずは驚く。そして、しっかりとボールを見ていることがわかる姿勢に、当たった後の、足をかく速さと強さに衝撃を受ける。強い、のは当然で、それよりも「上手い」というのがよくわかる取り組みだった。ちゃんと、頭の中で密集をイメージし、オーバーをイメージしている。一人じゃない。彼の目には、何人もの味方と相手が見えている。
もちろん、あたりもすごかった。すごいように見えた。コーチは軽く数歩吹っ飛ばされていた。
2番手が僕だった。
タウファの取り組みをしっかり頭に入れて、オーバーの相手をイメージしながら、味方のボールを生かすことを描きながらコンタクトにあたる、、、あたろうとした時、コンタクトを持ったコーチが、向こうから強烈に当たってきた。それに僕は押されてしまい、バインドできず、コンタクトに跳ね返されそうになる。流石に、しっかりと右足で踏ん張り、もう一度押し返すことで、なんとかオーバーをする。
よくみると、次の子に対しても、コーチは同様に、コンタクトの瞬間に、結構踏み込んで逆に吹っ飛ばそうとしている。
つまり、僕は、オーバーに入るタイミング、ポイントが遅いということだ。今まで何気なく、相手のいるところにただ入っていたこの練習も、このレベルでは、まるで違う練習だった。そして、当たってきたコーチのプレッシャーは、これまでのどんな練習よりも、強かった。それは、彼は元プロだ。強いのは当然だ。しかし、そんな彼が踏み込んでくるところを、タウファは、軽々とオーバーしていった。ものすごい爆音を響かせながら。