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新年の歩き方~Louisville編~
大都市には大都市の魅力があるが、どうもみな同じような顔をしていて面白くない。そこで新年はケンタッキー州のLouisvilleで過ごすことにした。
バス16時間に電車14時間
アメリカはでかい。飛行機に乗らないけちけち貧乏学生にとって、アメリカ旅行はつまるところ体力勝負である。まずアマーストからボストンに出るまでバスで3時間半。ボストンから東部の港町バルチモアまでバス9時間。そこから電車でオハイオ州のシンシナティまで電車で14時間。またバスで3時間かけてLouisville着。軽くアメリカと日本を往復できる時間である。
長距離移動で一番問題なのは、足に血が溜まってふくらはぎが破裂しそうになることである。あと単純に暇。寝るかスマホいじるか人を観察するか以外することがあまりない。
朝5時のバルチモア
長距離バスのバス停は、決まって市の中心から外れた位置にある。朝5時半くらいにおろされたのは、周りに何もない住宅地。人通りも少なくあたりも真っ暗。さらにタイミングが悪いことに携帯はデータ通信制限にかかる。お先も真っ暗である。
ただ絶望するのはまだ早い。弱者に味方してくれるのはいつもGoogleのオフラインマップと地球の歩き方である。1時間くらいかけて力技で電車駅にたどり着いた。
体力の限界を迎えて駅で横になっていたら、誰かにたたき起こされた。
"Excuse me, sir."
警備のお兄ちゃんだ。
"What time is your train departure?"
"9am."
どうやらホームレスと勘違いされたみたいである。ホームレスですかと直接聞くのは失礼だから、間接的に「駅に用はあるの(=何時発なの)」と聞いてきたのだろう。
うるせえなと思いながら起き上がろうとすると、
"Okay, but make sure you put on your shoes."
いや、靴履けば寝ていいんかい。
アメリカでは、どうやら公共の場で靴を脱ぐのは良くないらしい。バスや電車の中でも、ここの人は隣の席が空いていたら靴のままその席の上に足をのばす。靴下になっている人を見たことが一度もない。日本なら靴で上がるのは汚いから靴下になるのに、それが通じないということか。
そもそも、靴下って「靴の上」なのになんで「靴の下」なんだろう。靴より汚くなるもの=靴下なのだろうか。だとしたら納得できる。
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緊急避難先Cincinatti
通っていた車校の教官に「君、人生失敗しないタイプだよ」と言わしめた筆者にも失敗はよくある。電車の到着時刻の午前午後を勘違いし真夜中の1時半についてしまったのである。またホームレス扱いされるのはごめんなので、今回はちゃんとホテルをとった。
シンシナティの見どころは町の南部を流れるオハイオ川である。泥色に濁った大河は、橋を歩いて渡るのに20分ほどかかる。
歴史的に、このオハイオ川を隔てて南側が奴隷制度を認めていた州(Slave states)、北側が認めない州(Free states)だった。だから当時は身の危険を冒してでも川を渡って南のケンタッキーから北のオハイオに逃れる人々がいたようだ。そしてそれを秘密裏にサポートする有志団体 "Underground Railroad"が存在していた。その功績をたたえる博物館も見ごたえがあった。
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かと思ったら全然ちがった。@シンシナティ
「ピカピカ」の新年
Louisville に来てみたかったのは、まず南部の州であること、街の規模が大きすぎないけれど見どころが結構あるところだ。実はいろんな有名人の出身地である。KFCのカーネルサンダースから始まり、トムクルーズ、モハメドアリ、エジソンまでいろんなおじさんの出身地だ。
大晦日の夜11:30。寄宿していた家からUber(タクシー)でダウンタウンに向かう。バーに入るためパスポートを忘れない。あと銃に倒れたとき警察が身元を分かるように笑。
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夜11:30のウーバー
見えてきたスカイスクレーパー
気分はスーパースター
ダウンタウンのアーケードはお祭り騒ぎである。酒、たばこ、大麻のにおいに加えて、内臓が踊り出そうなくらいのスピーカーのビート、歓声、悲鳴、ライブミュージック、全部がぐちゃぐちゃになってもうよくわからない。
新年まで残り3分。ステージのどでかいスクリーンからカウントダウンが始まる。
残り2分。もう少し前に行きたいと思って体をねじ入れるが、イモ洗い状態身動きがとれない。しまった。目の前はテカテカ頭の爺ちゃん。ここで2024に変わる瞬間を過ごしたくない。
もう少し移動しなければ、、、
ああ、だめだ。動ける隙間がない。
"THREE, TWO, ONE…."
こうしていつも以上に煌めいた新年を迎えてしまったわけである。
でも大丈夫。新年なんだから、きっとトム・クルーズも帰省してるしているはずだ。トム・クルーズと同じ空気を吸いながら過ごす新年もいいじゃないか、とかすかな期待を胸に抱いてとぼとぼ帰路につくのである。
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図工のカンナ削りのにおいがして懐かしい。
Merry Christmas, Sir
新年一発目の困難は、帰りのUberを見つけることであった。そこら辺のホテルのロビーに忍び込んで、どっかりとソファーに座り込む。
Uberアプリを開くと、
なんと片道20ドルくらいのUberが80ドルまでスーパーインフレしているではないか!我が目を疑ってしまう。
どうやら配車料は需要と供給の仕組みで決まるようである。仕方なくこれが収まるのを待つことにする。
ホテルのロビーを見渡すと、いろんな人がいる。とにかくHappy New Yearを叫びまくるファミリー。酔っ払って意識がもうろうとしながら片手のシャンパンだけは離さないソファーのお姉ちゃん。そのお姉ちゃんに近寄づいて何とか家に連れてこうと口説くお兄ちゃん("Just follow me! Follow me!") 。
そして酒で赤くなった恰幅の良い白人のアンクルがニコニコしながら近づいてくる。だいたいこういうのはめんどくさいやつだ。
そして乱暴に肩を組んできて一言。
" MERRY CHRISTMAS"
"Happy New Year, Sir." ビジネス笑顔をかましながら腕を肩から振り落とす。
"GOD BLESS YOU"と千鳥足で離れていった。
あんたもね。
遺憾なことに、これが2024年初の"Happy New Year" になってしまった。
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運賃が距離制だから良い。
"Uber, high money, haha" と満足そうなインド訛りの運ちゃん。
マックで治安警報
アメリカに来て初めて身の危険を感じたのは空港から大学までの送迎中だが(最初のNote参照)、ついにここKentuckyで2回目が訪れてしまった。
次の街を目指すための夜行バスまで時間があったので、ステーション付近のマックで時間をつぶしていた。
マックは安い。誰でも入れるから治安が悪くなるのだ。少なくとも3人のホームレスらしき人に「ハンバーガー買って」とか「Give me charge(少しお金ちょうだい)」とかねだられる。たいていNoと言えばすぐ離れていくのだが、最後の一人はテーブルの向かいに腰を掛け、顔を近づけてきた。
"Gi 'me hamburger, You can pay, can't you ?"
"No."
"You are eat 'in fries, you can get me one !!"
"No I can't"
"(舌打ち), SHIT"
ポテトのケチャップとマスタードをわしづかみにして嵐のように去っていった。
これにはさすがにびびったのでバスステーションにさっそうと戻った。
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工場見学と試飲ができるできるツアーに参加。
「ウィスキーの中でも、トウモロコシが原料の51%以上含まれていたらバーボン」
っていうのをやたら強調してくる。
バス停の退役海軍じいちゃん
アメリカの交通機関は遅延する。呼吸をするように遅延する。
この日も結局夜11時発が夜中3時発に遅延。どうやったら4時間も遅れられるのか、逆に知りたい。
こうして暇な時間がまた増えてしまった。と思ったら隣に話好きなおじさんが座ってきた。"Retired navy"と書かれた帽子をかぶっている。
おじさんがいきなりジョークを試してくる。
"What is a deer with no eyes?"
ここは日本のジョーク代表としてぜひとも当てておきたい。
"Let me think about it"
だけど考えてもわからん。降参。
"I have no idea."
"Exactly, no eye-deer" とおじいさん。
"No i-dea!!!!"
なんと図らずとも正解を当ててしまったようだ。
我ながらギャグセンスが高いとを認めざるを得ない。えっへん。
そして他にもいろんなジョークをかましてくる。僕だけにでなく、周りの人にも。みんな待ち時間が長くなってイライラしてたけど、この陽気なおじいちゃんのおかげで少しは空気が和み始める。
レバノン、湾岸、アフガニスタン戦争で現役だったこのおじいちゃん。世界各地のアメリカ基地に配属されて、世界を3周したらしい。
それにしても、人を笑わせられる人って素敵だと思った。アメリカンジョーク、もっと練習しよう。
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彼の名はマイケル。
旅は続く→