『メキシコ旅行の途中で』[13] 奇妙な旅人
やっと、蕎麦屋に入りかけた時、また彼女が、「先に、手紙を書いて出して来るわ。」私たち二人を、店に残して行ってしまった。
しばらく日本食ともお別れだ。
最後の食事にしては、値段が高いだけの不味い蕎麦である。
「林さんて、プッツンなのかな?」「何だか、彼女にふりまわされたね。」
不味い蕎麦を食べ終わり、二人で話していると、ゲート集合の30分前になり、ようやく林さんが店の中に入ってきた。
早くしないと、ゲートまでは遠い。遅れたら大変だ。
ウエイトレスが注文を聞きに来た。
彼女はいかにも嫌そうに顔をゆがめて、「いらない。」と一言で済ませた。
せっかく水を持って来てくれたのに、『直ぐに出るから結構です。』とか『すみません。』くらい言ってあげればいいのに。ウエイトレスが悪いことした訳でもないのに、あんなに嫌そうな顔するなんて、教育者のすることじゃない。ウエイトレスの女性が何だか気の毒に思えた。
「手紙は出してきたの?」切手料金を予測出来ないほどだから、さぞ重い手紙なんだろうと気になっていた。
「切手売り場、探すの迷ったけど、少しオーバーで70円だったわ。」
「えっ、それなら、さっき60円と40円と20円の切手を買っておけばよかったのに。残ったらハガキも出せるし、無駄でないと思ったから、あの時、すすめたのに。」3人の中で、一番重い荷物を持っている私は、思わずそう言わずにはいられなかった。
「そういう買い方すれば、切手が無駄にならないのね。気がつかなかったわ。」そう言ったのは、林さんではなく、山田さんだった。
蕎麦屋を出て、ゲートに向かいながら、普通っぽい山田さんに比べ、若い林さんは、何かおかしいと直感してしまった。
17時15分、NH6便の全日空機で定刻通り、ロサンゼルスに向かって出発した。
また窓に近い通路側の席。隣は何と苦手な老夫婦。窓側にお爺さん、中央にお婆さん。通路を挟んで、林さん、山田さんと並んでいた。隣のお婆さんはお喋りな人だった。同じツアーの人でもあるし、そう無視もしてられない。あまり話さないお爺さんは脳血栓の後遺症があり、まだ薬を飲んでいるという。
「病気なのに、飛行機なんか乗って旅していいのですか?」リハビリの為に家の近くを歩く方が心配なくていいはずだが。
「だいじょうぶ。先月もヨーロッパの方へ行って来たし、お爺さんが行きたいと言うから。薬もちゃんと飲んでるから。」
70歳以上の人は、医師の診断書がないと飛行機には乗れない。本当に大丈夫なのだろうか。他人の私がこんなに気になっているのに、お婆さんはドーンと落ち着いている。
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