『メキシコ旅行の途中で』[18] ところ変われば
次は、メヒカーナのターミナルまで移動だ。随分、距離がある。
あの気になる、やせっぽちの女の娘がふてくされて、みんなより遅れる。
スーツケースを、面倒くさそうに転がしている。気分悪そうに見える。
彼氏の方は、荷物もなく、先の方を歩いて行く。
見かねたオバサン4人組が、彼氏に説教を始めた。
「女の娘に重い荷物を持たせるなんて、喧嘩でもしたの?気分悪そうだだから、荷物くらいもってあげたら?男でしょ!」
「どうも、心配かけてすみません。」
それで、終りかと思ったが、ますます酷くなった。
メヒカーナのターミナルに入ってから、女の娘が靴を脱いで何やら言っている。
「そんなら、もう帰れ!」
彼氏が怒鳴ると、彼女は泣き出した。
そこへ、何とたまりかねたアメリカ人の男性が、飛び出してきた。
注意しているようだ。
まだ、目的地にも着いていないのに、何だか大変な旅になるような気がしてきた。
異国の人でさえ、気にかかる喧嘩。二人はどういう関係なのかも解らない。
「まだ始まったばかりなんだから、帰るなんて言わずに、仲直りして、楽しく行きましょう。あなたたちがそんな風じゃ、みんな不安になるでしょう?」
4人組のオバサンたちが、なだめすかして、一件落着。
15時53分、MX915便。
メヒカーナに乗り、一時間ほど遅れ、アカプルコに向かった。
機内は、本当に掃除したんだろうかと思うほど、汚れている。エイズやB型肝炎がどうも気になる。窓側に山田さん、中央のに林さん、通路側に私。
誰が言い出した訳でもないのに、3人とも、濡れティッシュで、手の触れる所を全部拭いていた。
前の座席に、メキシコ人らしい赤ん坊を連れた若夫婦がいた。
アルフレッドとリリアもこんな風なんだろうか。
写真でチラッと見ただけの彼らと赤ん坊のことが、頭に浮かんだ。
前の赤ん坊が騒ぐと、子供が嫌いな私には耳障りでたまらなかった。
嫌いというよりは、何をするか解らない子供が恐い。
何をしても許される子供が悪魔に見えてしまう。
出来ることなら、関わりたくない。嫌な席になってしまった。
アカプルコまで、4時間もある。途中のグァダハラで降りてくれればいいと願った。3人で、これからの旅のことをあれこれと、話している時、座席の下の方から、プーンと大便の臭いが漂ってきた。
前の座席の下に新聞紙がバサッと置いてある。
どうも赤ん坊のオムツをトイレまで行かずに、座席の上で替えているようだ。
新聞紙は、その為に使用したらしい。便の付いたオムツを座席の下に置いているような気もする。クーラーの、風に乗って時々、プーンと臭ってくる。
特別、臭いに敏感な私には耐えがたい。
機内食の飲み物は、他の飛行機みたいに選べない。
アルコール飲料とコーラだけである。
“Agua Sin Gas Please. ”と言ったら、“No.”と断られてしまった。
ミネラル・ウォーターも炭酸入りしかないようだ。仕方なくコーラにした。
「夕食は機内食で。ホテルに着いたら、朝食の時間まで何もないから、そのつもりでいるように。」と阿川さんに言われていたが、やっぱり、殆んど食べられなかった。
大好きな野菜さえ、出発前にセイコから『水道水は、飲まない方がいい。野菜は農薬がキツイから、食べない方がいい。』といわれていたこともあり、何となく味も違うような気がして、一口で止めた。パンとデザートとコーヒーしかない。
パンも日本のものより美味しくない。
隣の彼女たちは、羨ましいほど食べている。
やっと、アカプルコ空港に着いた時は、夜の8時を過ぎていた。
タラップを降りると、ムッと生暖かい空気が流れてきた。
夕立の後のようだ。湿気でムシムシする。日本の梅雨以上に暑い。
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