「60%のお母さんでいいんですよ」
娘が二年前に双極性障害で入院したとき、不安でたまらなかった私に主治医が言ってくれた言葉。娘が生まれてから一度も長い間離れたことがなかった。先生の診察の時いつもだったら二人で外来で待っていたのに、その日は一人で診察を受けなければいけないことが悲しくて仕方なかった。
始めての入院で不安だった私に娘は言った。
「10時から17時の面会時間に毎日年中無休で来て」
と。
真夏の暑い日に駅から離れた病院までバスと電車と徒歩で二か月間毎日通った。娘がとてもつらい思いをしているのに、自分だけが外食するのがはばかられた。自分が家でゆっくりすることに罪悪感があった。だから毎朝決まって冷凍うどん、昼はコンビニのおにぎり二個、夜も冷凍のスパゲティーを食べ続けていた。
また別の日には主治医に
「お母さんは、自分の時間を持っていいんですよ。娘さんはもう20歳も超えて娘さんとお母さんは別々の人間なんですよ。」
と言われた。
娘は一人っ子で発達障害があり、ほかの子よりも不器用でいつも私が宿題を手伝っていた。学校生活も二人三脚でやってきた。そして退院した今もいまだに同じ部屋で過ごしている。
最近たまに喧嘩になったりすることがある。私自身ひとりの時間が欲しいのに昼夜逆転している娘に合わせる日々にイライラしていた。その気持ちが娘に伝わっているのか
「眠るまで起きてそばにいてほしい。」
という。
私は正直に言った。
「あいつ(若年性認知症の旦那)のこともあるし、○○子の世話もあるし、ストレスが溜まってるんだよ。だから意識的に自分一人だけの時間を作りたいんだ。今も動画サービスで今日配信のドラマを観たいんだよ。」と。
「だから私はリビングに行くね。」
と半ば強引に娘を部屋においてきた。私たちはきっと距離が近すぎたのかもしれない。友達親子などというと聞こえはいいが、娘のことを100%わかっているつもりになっているのかもしれない。
実際はそんなことないはずなのに。見ている場面は同じでも娘が感じることと私が感じることは違って当然のことなのに。そんな風に思いながらドラマ「35歳の少女」を観ていた。
「親離れ、子離れの問題ですね。」
と主治医に言われたことがある。娘にとっても私にとってもお互いを尊重する距離感は今後必要になってくるのかもしれない。