連載③ Andy Shauf 『The Party』の魅力
前回トコトコくんが紹介してくれたBad Bunnyは僕も全く知らなかったアーティストで、ラテン・アーバンというジャンルにもそれほど心惹かれなかったのですが笑、聴いてみると予想していた印象とかなり違い、しっとりとムーディな曲揃いですっかり気に入ってしまいました。特にJ Balvinとのコラボアルバムの中の「La Canción」という曲が好きでした。Justine Bieberの新作然り、現行のアメリカポップシーンでは暗さを持った曲がチャートトップを賑わせているのが個人的に好感です。
さてインディー担当の私は今回、前回の記事の「客演少なめ・多彩なサウンドプロダクション」という部分をしりとりに、全ての楽器を自らで演奏しながら、まるで深い森に連れて行かれるかのようなサウンドを手がけるカナダのシンガーソングライター、Andy Shaufを取り上げたいと思います。
突然ですが、皆さんは「パーティ」と聞いてどんな気持ちになりますか?
楽しいイメージを持つ方が多いのかもしれませんが、僕はまず不安を感じてしまいます笑
“その場に馴染めるのかな?””一緒に話をできる友人はどれくらい来るのかな?”と無意味な想像を膨らませてしまうのです。
誘ってくれた友人が自分の知らない別コミュニティで盛りがったりしてしまうともう最悪で、家で音楽聴いてた方が何倍も楽しかったのに!とゲンナリしてしまいます。
海外の映画やドラマに出てくるプロムの文化が日本になくて心底良かったと思う小心者なのです。
何が言いたいのかというと、今回紹介するAndy Shaufによる2016年の傑作『The Party』は居心地の悪いパーティをテーマにした僕のような小心者にとってすごくフィットするアルバムだということです。
このアルバムは『The Party』というタイトルの通り、あるパーティとそこに参加するいくつかの人々の物語が綴られた作品です。主人公と思われる人物も、僕と同じようにパーティを心の底から楽しめるタイプではないのか、随所にその表現が認められます。
例えば…
・会場に早く着き過ぎてしまう
・2番乗りで来たのが自分の知らない3人組
・周りのみんなに笑われているように感じる
・気になる子が他の男といい感じに
・と、勝手に勘ぐって自己嫌悪
・気が大きくなって大胆な発言をしてしまい後からどうしようもない気持ちに
など、もし自分だったら、と想像を膨らますと、いてもたってもいられなくなるような情景描写が数多く登場します。挙句の果てに(と言っても3曲目ですが)前述した私の気持ちと同様に、
“Just let me walk home(どうか家に帰らせてくれ)”という一節まで語られてしまいます。
ここまで書くと、どこかズッコケ感のあるユーモラスな作品のように聞こえるかも知れませんが、実際にアルバムを通して聴くとそんなイメージとは全く反対の、シリアスで暗さを持ったアルバムだという印象を持たれることでしょう。その要因は彼が一人で紡ぎ出すサウンドプロダクションにあります。
このアルバムは全編を通してゆっくりと暗闇の底に落ちていくような絶望的なムードを堪えています。そしてその雰囲気こそが私がこのアルバムの虜になったきっかけでもありました。特にオープナーである「The Magician」は珠玉の一曲です。冒頭、深く響くピアノにやけにクリアなギターストローク、そこに印象的なサックスリフが重ねられることで、これから何か不吉なことが起こることを予感させる身震いするような仕上がりとなっています。
余談ですが、最近レコードプレイヤーを購入し、はじめてのレコードとしてこのアルバムを選んだのですが、A面が「The Magician」から始まりB面がアルバムの救いの一曲とも言える「The Worst In You」で始まるのがとても素敵だなと感じています。レコードをひっくり返すという行為にはこんな意味もあるんだなとささやかに感動してしまいました。
新作『The Neon Skyline』も好評なAndy Shauf。たまには居心地の悪いパーティに参加しながら、昨年5月以来となる来日公演に期待しましょう。