連載①Phoebe Bridgers ”Scott Street”
“Jesus Christ, I’m so blue all the time” -孤独を歌い生まれる繋がり-
連載のスタートとなる今回はしりとりするものがないので、投稿者であるMMM・トコトコと同年代であり、私が敬愛してやまないPhoebe Bridgersというアーティストについて書いていきたいと思います。
みなさんはある曲が持つフィーリングをどこで認識するでしょうか?歌詞やサウンド、その曲が生まれる背景など様々あるかと思います。
タイトルにも書いたようにPhoebeの曲の多くでは孤独をテーマとしています。ただ、彼女は直接的な言葉ではなく、 “blank” すなわち「空白」を用いて聴き手にフィーリングを伝えることが非常にうまく、そこがこのアーティストの大きな魅力だと感じます。
Phoebe Bridgersは1994年8月にロサンゼルスで生まれた25歳。2017年にアルバム『Stranger In the Alps』でデビューしました。私はこのアルバムの5曲目に収録されている「Scott Street」という曲が大好きなのですが、この曲で上述した彼女の「空白」でフィーリングを届ける魅力が遺憾なく発揮されています。
https://music.apple.com/jp/album/scott-street/1256607808?i=1256607813
シンプルなアコースティックギターのイントロから彼女の透明感溢れるメロディーで幕を開け、そのメロディーに呼応するようにコーラスやノイズ、打楽器、ストリングが重なり合い、徐々に熱を帯びていきます。そして5分の曲の内で約2分を占めるアウトロで大団円を迎える構造となっています。
どこか悲しさや憂いを纏っていた序盤から、それを昇華するように羽ばたいていく展開は見事というしかなく、心奪われるものです。
サウンド的展開と並んで特筆すべきはその歌詞です。
1stヴァースではScott Streetという通りを歩く淡々とした日常が綴られ、2ndヴァースでは離れてしまった誰かとのどこか白々しく思い出をなぞるような会話が展開されているだけです。
しかしそこに挟みこまれる”Do you feel ashamed when you hear my name?”というリフレインのように響く印象的なコーラスと、アウトロでの”Anyway, don’t be a stranger” というフレーズにより歌に豊かな膨らみがもたらされているように思います。
youとは誰なのか、何が起こったのか、具体的なことは伏せられつつも、聴き手はシンガーの湛える、かつて親しくしていた人への愛憎入り混じったわだかまりの感情や、それでも無関係な誰かになってほしくないという祈るような気持ちに思いを馳せることができるのです。
そして前述した徐々に熱量を帯びる演奏や情感的な様々なサウンドが絡み合い、わずか5分曲の中で聴き手に大きな感情の揺らぎをもたらしています。
Phoebe自身も「Song Exploder」の中で、当初ドラマーのMarshall Voreが作っていた”Do you feel ashamed when you hear my name?”の後に続くビッグ・コーラスを「不必要」だと省いてしまったと話しています。また「この曲で気に入っているのは何故悲しいのかを伝えていないところ」とも語っており、意識的に”blank”を作っていることを明らかにしています。
http://songexploder.net/phoebe-bridgers
(※この企画では初期段階でのデモやPhoebeアカペラなど貴重な音源が登場します。興味を持たれた方は是非ご一聴を!)
具体性を省きながらもサウンドと歌詞の妙により感情を聴き手に伝えることで、私を含む非英語圏の音楽リスナーの心にも深く沁みわたる曲が生まれえたのでしょう。
Phoebeはデビューアルバムをリリース後、2018年にはboygeniusとしてJulien Baker、Lucy DacusとともにEPを発表し、2019年にはConor OberstとのユニットBetter Oblivion Community Centerとしてアルバムをリリースしました。またThe NationalのMatt Berningerとのコラボ曲をリリースし、The 1975のニューアルバムへの客演も予定されているなど、非常に精力的に多くのアーティストと活動を行っています。
孤独や悲しみを歌うことで繋がりが生まれていくという、とても不思議で感動的なキャリアを歩んでいる彼女の動向にこれからも目が離せません!