日本列島をもっと知りたくなる| 特別展「和食」国立科学博物館
日本に住む私たちにとって「和食」はあまりにも日常そのもの。
現在、国立科学博物館で開催されている「和食」展は、日本列島とその歴史から「和食」の真髄を伝えてくれます。
すべてはこの日本列島にある
南北に長い日本列島。その南から北までの様々な気候風土によって育まれてきた「和食」。
これには、日本列島の突出した「生物の多様性」が大きく関わっていました。
その多様性はそのまま食材にも影響し、日本各地の四季折々の豊富な食材が、特色ある郷土料理を生んできました。
さらにこの気候や歴史から生まれた、私たちの特性…丁寧な仕事、創意工夫、美しく飾る美意識、伝統を重んじる心が加わり、時に他のものを受け入れ融合させ「和食」を象ってきたのです。
「和食」に最適な日本の水
食の基本となる「水」は大きく分けて「軟水」と「硬水」があります。それは水中の「ミネラル成分」と呼ばれる中のカルシウムやマグネシウム等が、どれだけ含まれているかによって決まります。日本の水は一般的にその量が少ない「軟水」で柔らかい水です。
それには日本の地形が大きく影響しています。険しい山や谷が分布し降水量が多いために、雨水が大量に早く流れ、地層にあるカルシウムなどを吸収しにくいのです。
また日本の地層に、それら成分となる鉱物が少ないことも要因の一つです。
和食には出汁が欠かせませんが、「軟水」はその出汁をよく出してくれます。「硬水」は「ミネラル成分」が邪魔をして、出汁を水に溶けにくくさせ、さらに出汁成分が結合し灰汁となってしまいます。
また、日本茶の味を楽しむにも「軟水」が適していて、香りを楽しむ紅茶や中国茶は硬度の高い「硬水」が適しています。
地形や天候によってつくられた「水」が、各地域の食に大きく関わりあっていることが分かります。
米と和食材
▮和食に欠かせないものは何と言っても「米」。弥生時代に稲作がもたらされてから急速に全国的に広まったことには、それまでにはない栄養豊富で美味しいことにありました。
その「米」と一緒に和食の根幹をなすのが、とうふや納豆、みそやしょうゆのもととなる「豆」。
「米と味噌さえあれば生きていける」と昔の人が言ったように、日本の食卓になくてならないのが「米」と「豆」です。
その「米」の消費量が減っているのは承知のことですが、それは和食材の衰退にも繋がっていくのです。
田んぼから流れる出るミネラルが沿岸の魚介を育て、それを食べる大型のマグロなどの回遊魚が近海へと集まります。
米離れで田んぼが減るとそのサイクルが乱れ、魚介類が減少します。
また「米」のお供である「大豆」の消費量も減っていき、それらに関係する和食材の利用も減っていくという、負の連鎖に陥ってしまう可能性があるのです。
▮私たちが食べている「野菜」のほとんどが、海外を原産地とするものです。
その中で最も早く弥生時代には渡来していたされるのが「大根」。日本では世界で最も多く800品種もが存在しているということです。
これだけ多くの品種が生まれたのは、日本各地の気候や土壌が様々ということです。
各地に残る伝統野菜は手間暇がかかり大量生産に向かないもので、「大根」で言えば全国に流通している殆どが、生産しやすく食べやすい青首大根になっています。
▮日本の食卓には毎日のように登場する「海藻」ですが、これは日本特有。
「海藻」を食材にしている国は東アジア、南米、ハワイなどで数種が食べられているにすぎません。
海藻を消化して栄養にできる腸内細菌を持っているのは日本人だけと言われるように、日本では古代から各地で30種以上の海藻が食べられてきました。
中でも「昆布」は奈良時代には調理に使われていたとされ、続日本書によると、金と同じ価値があったということです。
※続日本書とは、日本書紀に続く平安時代初期の歴史書
「和食」のはじまりは縄文食
「和食」の基本「米」の利用は弥生時代からですが、それ以前の縄文時代には、それぞれの地域でその季節にとれる食材を組み合わせるなど、自然と共存する食生活のスタイルが出来ていたことがうかがえます。
これは「縄文カレンダー」と呼ばれる、縄文人の年間の活動を表しているものです。
貝塚から見つかった動物の骨や貝殻、炭化した種などから、これらの動物や植物が食材として使われていたと考えられています。
崎山貝塚(岩手県)と東名貝塚(佐賀県)では、それぞれの地域で狩猟・採集された動植物をバランスよく食用にしていたことが分かります。
「和食」は私たちのアイデンティティ
2013年に「和食・・日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、今や世界各地で注目されるようになり、それに伴って独自に変化している側面も見られます。
「日本列島特有の生物多様性や、この風土によって作られた文化を知ることが、日本に住む私たちのアイデンティティであり続ける」
「和食」という言葉の響きが、ずっと大きく奥深く思えるようになった展覧会でした。
参考図書
特別展「和食」公式ガイドブック
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