正しい医療とは?
医療デマについて
医療をめぐって様々なデマがあるのは確かである。
医療デマが広まることはゆゆしき事態である。
医療デマにより、がんの適切な治療を受けずに、根拠の曖昧な民間療法にかかり、手遅れになる人がいる。それにより結果的に命を落とす人がいる。
出版の自由は日本国憲法で定められた権利である。だから、そのような本を規制するべきか、あるいは規制するとしたらどこまで規制するべきかについては、慎重な議論が必要であると考える。
しかし、一方で医療デマに人々が惑わされないようにするにはどうしたらいいかということが社会の中で考えられていかなくてはいけない。それはそのとおりである。
何が医療デマであるかはっきりと分かるのか?
しかしである。では、何が医療デマであり、何が医療デマでない情報かというのは、どこまではっきりと分けられるものであろうか?信用のある学会の論文等で、はっきりとエビデンスが主張されていれば、それは医療デマではないだろう。また政府の公式発表やある程度信用力のあるマスメディアに掲載されたり、報道されたりしている情報であれば、医療デマとはいえないだろう。
では、専門家が述べたことであればどうか?専門家にもいろいろな専門がある。医療の専門家でも、皮膚科の医師や歯科医が新型コロナウイルスについて何かを述べたとしても、それは新型コロナウイルスの専門家による発言ではないかもしれない。それに対して感染症やウイルスの専門家が、新型コロナウイルスについて何かを述べたら、それは専門家の発言ととらえてもいいのかもしれない。しかし、感染症やウイルスといっても数多くの専門家がいる。また、その専門家の所属先も違う。大学の研究室なのか?医療機関なのか?研究所なのか?さまざまである。
情報の提供主体や時によって変わる医療の正しさ
正しい医療情報とは何だろうか?明らかに根拠のない間違った医療デマはあるだろう。しかし、では正しい医療情報を得ることについても、いったいそれはどこまで可能なのだろうか?なぜなら、正しい医療とは時や情報の提供主体によって異なるものだからである。
例えば新型コロナウイルスの感染予防策を例にとってみよう。ちなみに私は感染症の専門家ではない。しかしである。そうであるがゆえに専門家でない私は、複数の情報提供主体から違う情報を示されて、いったい何が正しいのか分からなくなってしまうのである。
ここでまず新型コロナウイルスの接触感染に関してどのようなことが述べられているかを例に挙げる。
厚生労働省のホームページによればこう記してある。
新型コロナウイルスへの感染は、ウイルスを含む飛沫が口、鼻や眼などの粘膜に触れること、または、ウイルスがついた手指で口、鼻や眼の粘膜に触れることで起こります。このため、飛沫を吸い込まないよう人との距離を確保し、会話時にマスクを着用し、手指のウイルスは洗い流すことが大切です。さらに、身の回りのモノを消毒することで、手指につくウイルスを減らすことが期待できます。
新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
(2022年8月26日閲覧)
なるほどそうなのかもしれない。新型コロナウイルスは、新型コロナウイルスが付いた物に触れることにより、その後、さらにそのウイルスのついた手で口や鼻に触れることで感染するのかもしれない。
そうであるがゆえに、飲食店や学校など、多くの場所で、机やいすにアルコール消毒液をかける消毒作業が行われている。
しかし、では一方でどうだろう。毎日新聞の記事に以下のような記事が掲載されている。
感染経路をめぐっては世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)が昨春、エアロゾル感染と飛沫(ひまつ)感染が主だと挙げ、接触感染は起きにくいとする見解を示した。
「エアロゾル対策に集中を」専門家グループ提言、感染研に苦言 毎日新聞 2022/7/29
05:30(最終更新8/1 17:15)
https://mainichi.jp/articles/20220728/k00/00m/040/136000c (2022年8月26日閲覧)
私はこの2つの情報を2022年8月26日に閲覧している。
片方は、厚生労働省のホームページであり、もう片方は毎日新聞のホームページである。
片方(厚生労働省のサイト)は、新型コロナウイルスは接触感染によって起きると記してあり、消毒方法や消毒に使う消毒液について述べている。一方でもう片方(毎日新聞)はWHOやCDCの接触感染は起きにくいとする見解をあげている。
一体どちらの情報が正しいのか?厚生労働省が医療デマを流しているとは考えにくいだろう。
あるいは毎日新聞がWHOやCDCが接触感染は起きにくいとする見解を示していないのに、見解を示したという医療デマを流しているとは考えにくいだろう。
正しい医療情報とは?
正しい医療情報というのは時として必ずしも確固として定まったものではない。そこには曖昧性がある。医療デマは人を惑わし、時として人の命さえ奪うことはあるのは確かである。しかし、それに対して唯一の正しい医療情報があると信じ、己が見聞きした行政機関の発表や、権威や信用のある情報源から得た情報を、唯一の真理と信じる態度もまた、そこに危うさがあるのではないかと考える。