民藝旅 vol.1 山陰・愛媛編 \2日目/【鳥取 1】
4月9日火曜日、晴れ。
イギリスへ行けちゃう12時間のエコノミーなバス旅で、鳥取県に到着。
トイレの失敗がなかったことに、ほっとした。
駅の近く、公園わきにバスは止まった。荷物を受け取る。
ひとまず、顔を洗って、歯を磨きたかった。時刻は9時35分。
駅に行けばお手洗いがあるはず。
5分ほど歩いて、駅に到着する。
駅前に新しいお手洗いがあったので入ってみる。清潔で、落書きもない。
鳥取県民には、きっとヤンキーがいないんだな。念願の歯磨きをしながら、眉間のシワが伸びた。
顔もサッパリしたところで、駅にある観光案内所を訪ねた。
正直、鳥取の地理がサッパリなのだ。エヘン、と胸を張るくらい、砂丘のほかに場所が思い浮かばない。
観光案内所のドアを開くと、にぎやかな中国語。10人ほどの観光客がスタッフさんと盛り上がっていた。
壁際にある地図を手当たり次第ひっこぬいて眺めてみる。
素敵な景色や、美味しい食べ物の情報が満載。
カニ食べたいな…と煩悩に支配されそうになる。
すると「君はここに何をしにきたのだね?」と、妄想の柳先生が叱咤する声が聞こえて、我に返った。
そうよ、私は観光に来たんじゃない。民藝について調べにきたのだ。
目的は、鳥取の民藝とものづくり。和牛とカニじゃない。
よだれを拭きながら、職員さんに話しかけた。
職員さんは、民藝と関わりのありそうな窯元や、オススメの温泉スポットを丁寧に教えてくれた。地図に印をつける。
いよいよ、旅らしくなって来たぞ。鼻がむずむず。
観光案内所に、なにやらド派手な傘が飾ってあった。
雨傘にしてはすき間が多いし、日傘にしては鈴付きでゴージャスすぎる。
あとで聞いたところによると、雨乞いの「シャンシャン祭り」で使う傘とのこと。デザイン、かっこいいなあ。
駅前のマンホールは、あっちもシャンシャン。こっちもシャンシャン。
* * *
観光案内所を後にして、ゆみさんと縁側ちゃんに教えていただいた、ギャラリーショップSORAさんを訪れた。駅から徒歩5分。
素敵なお店が駅チカって良いな。
ギャラリーショップSORAさんは、きゅんとするディスプレイ。和紙ランプ。一点作家ものを探すのにぴったりなお店。
美しく編まれた竹細工。水面をすくい取ったようなガラス皿。
ウルトラ怪獣的なかわいい陶器。
鳥取を中心とした作家さんの、心がこもった作品が並ぶ。
民藝とは違うけれど、やっぱり人の手が作りだしたものって、温かい。
そもそも、消費者にとって、作り手が「職人」か「作家」かというのは、あまり重要じゃなくて。
「人の手が生み出した」ということが求められているのかも…?
* * *
お昼どき、ぐうぐうと文句を垂れるお腹をさすりつつ、近くの「たくみ割烹店」を訪れた。
外観からして、とっても素敵。初めて見る建物のデザイン。
伝統を感じるのに、どこかモダンで、やっぱりレトロで、品がある。
1階席は満席だった。大人気。英語で案内されながら、2階へ上る。
もうそろそろ「にほんごはなせます」ステッカーを帽子に着けようか悩む。
縁側ちゃんに教えてもらった、味噌煮込みカレーをお願いして、店内をきょろきょろ。
正座すると足が入らない。
足をびろんと伸ばして食べるには、奥行きが短い。謎のテーブルにあぐらをかいて座った。
コーヒー色の木造デザイン×型染め。店内は、THE・民藝な雰囲気。
個人的にはカッコいいのだけど、店内が薄暗くて、壁が古びているせいか、ちょっと古っぽく見えた。(壁を塗り直して、照明の色や、数を工夫したら、もっとモダンに見えるかも…)
もじもじ、そわそわ。
カレーを待っていると隣の席にスーツ姿の女性が座った。馴染みのお客さんらしい。その後も次々に、2階席にお客さんが上ってくる。
若い人、老紳士、いろんな人が、ぞろぞろ。
ぼ〜っとしていたら、お姉さんに声をかけられた。
鳥取県民さんは、どうしてこうもあったかいんだろう。惚れてまうやろ、と思いながら楽しく会話していると、カレーがやってきた。
多い。カレー、漬物、トマトサラダ、お吸い物、コーヒーまでつけて1,080円。とってもお得なランチだと思う。何より、民藝のお皿を使った食卓の体験ができるのだ。たまらぬ。
むちむち、とろとろの牛肉。スパイシーなルウ。一口食べて、ほぅとため息がもれる。
おいしいご飯だった。
* * *
カレーで満腹のところ、伊吹ちゃんから連絡が入る。
すぐ近くに車を停めているそうだ。道路で待っていると、クリーム色の車に乗った伊吹ちゃんが来てくれた。
伊吹ちゃんは、数日前、東京ビックサイトのイベント「クリエイターEXPO」で出展していたイラストレーター。私はお客さんとして来場。フラフラしていたところ、どツボな絵柄に、思わず足を止めた。
そして、色々と話しているうちに、意気投合して、「鳥取でお茶をしましょう」という流れになったのだ。
伊吹ちゃんとのドライブは楽しくて。
目的地は海辺のカフェだったのだが、気を利かせてくれた伊吹ちゃん。
お城跡の桜、山越えの旧道、らっきょうの草原、絵になる漁村とジオパーク…
さまざまな場所へ車を飛ばしてくれた。
* * *
民家の間を抜けて、たどり着いた先はハワイだった。
その名も、cafe ALOHA。
暗くて荒い、と聞いていた日本海は、淡く切ない色をしていた。
桜が散る1秒前のような、儚さが美しかった。
カフェで、伊吹ちゃんといろんな話をした。
民藝について興味を持ったきっかけや、今後の展望。
日本のものづくりや、疑問など。
そして、伊吹ちゃんの好きなこと、蒔絵や浮世絵についても、たくさん教えてもらった。同じ絵描きとして、興味の方向性は違うけれど、好きなことを話すと止まらなくなっちゃう性が似ていて。くすぐったい時間だった。
めいっぱい話して、打ち解けたところで、鳥取砂丘に向かった。
* * *
本当に、びっくりした。
どこまでも果てしなく続く、砂の丘。
砂丘と空の間に、米粒くらいの人が見える。
海のすぐそば、砂丘のど真ん中なのに、淡水が湧くオアシス。
全てが想像を超えていて、大人ぶっていた心の紐がバチンと弾けた。
伊吹ちゃんと2人、子どもに戻ったように、砂丘の壁を駆け上がった。
もう少しで頂上というところで、体力の限界、足が重くて。でも、バランスを崩すと真っ逆さまに転がり落ちそうで。ぜいぜい、息を切らせながら、なんとか頂上によじ上った。
見上げた空の、なんて爽快だったこと。
風は、吹き飛ばされそうなほど強くて。空は、宇宙が透けそうなほど青くて。
声をあげて笑った。
クタクタになったので、2人で梨のアイスクリームを食べた。
* * *
鳥取の1日目。なんて素敵な1日だっただろう。
ゲストハウスに送ってもらって、日記を書いた。
瞼を閉じると、今でもキラキラと輝く水面が見える。
明日は、Webデザイナーの小島さんが倉吉という街を案内してくださることになっている。倉吉って、どんな街だろう。
鳥取に恋した民藝旅2日目。
胸いっぱいに、期待を吸い込んで、柔らかい布団に包まれて眠った。
そして、旅は「白壁土蔵群の城下町、倉吉」に続きます。
もじゃ!